日本大百科全書(ニッポニカ) 「トリニトロトルエン」の意味・わかりやすい解説
トリニトロトルエン
とりにとろとるえん
trinitrotoluene
TNTの別名で知られる高性能軍用爆薬。日本ではトロチル、茶褐薬などともよばれた。TNTは1863年ドイツのウィルブラントJulius Wilbrand(1839―1906)によってつくられた。1920年代まではピクリン酸(下瀬(しもせ)火薬)が主要軍用爆薬として存在したが、いくつかの欠点をもつために、それらの欠点のないTNTと併用された。
炸薬(さくやく)として使われるTNTは、2,4,6-トリニトロトルエンで、他の異性体を分離精製して用いられる。淡黄色の結晶。発火点は475℃、アルカリが加わると低くなる。吸湿性はなく、水に不溶で、濃硫酸、濃硝酸および多くの有機溶媒に溶ける。示差熱分析における分解温度は250℃、爆速は比重1.6で毎秒6900メートルである。摩擦および打撃に対しては比較的鈍感で、安定性もよい。ピクリン酸と異なり、重金属と反応して摩擦、打撃に非常に敏感な金属塩をつくることもない。
融点が80.8℃と低いので、砲弾などに溶填(ようてん)することが容易で、炸薬としてもっとも多く使われてきた。単独でも使われるが、他の爆薬と混合しても用いられる。二成分含TNT爆薬の例としてはペントライト(PETNとの混合物)、シクロトール(ヘキソーゲン=RDXとの混合物)、アマトール(硝安との混合物)、オクトール(オクトーゲン=HMXとの混合物)、トリトナール(アルミニウムとの混合物)などがある。RDX60%、TNT40%および少量のワックスからなるコンポジションBも第二次世界大戦中に大量に使われた炸薬の一つである。
製造が比較的容易なこともTNTの一つの特長である。トルエンと硝酸を原料とし、濃硫酸および発煙硫酸を副原料として3段階のニトロ化反応を経て製造される。
[吉田忠雄・伊達新吾]
トリニトロトルエン(データノート)
とりにとろとるえんでーたのーと
2,4,6-トリニトロトルエン | |
分子式 | C7H5N3O6 |
分子量 | 227.1 |
融点 | 80.75℃ |
沸点 | 245~250℃/50mmHg |
比重 | 1.654 |
溶解度 | 1.23g/100g(95%エタノール 20℃) |
爆発熱 | 925cal/g |