ニトロ化合物(読み)ニトロカゴウブツ(英語表記)nitro compound

デジタル大辞泉 「ニトロ化合物」の意味・読み・例文・類語

ニトロ‐かごうぶつ〔‐クワガフブツ〕【ニトロ化合物】

ニトロ基をもつ化合物の総称。特に有機化合物をいい、ニトロベンゼンニトログリセリンなど、染料や爆薬として重要なものが多い。

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精選版 日本国語大辞典 「ニトロ化合物」の意味・読み・例文・類語

ニトロ‐かごうぶつ‥クヮガフブツ【ニトロ化合物】

  1. 〘 名詞 〙 分子中にニトロ基をもつ有機化合物をいう。狭義には炭素にニトロ基のついたC‐ニトロ化合物をいい、O‐ニトロ化合物やN‐ニトロ化合物はそれぞれ硝酸エステルニトロアミンといって区別する。C‐ニトロ化合物が化学的に最も安定し、変質や自然分解が小さい。雷管を用いて爆発させると爆発力が大きいのでピクリン酸トリニトロトルエンなど火薬原料に用いられる。また有機合成の中間体やアミンの原料としても重用される。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニトロ化合物」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化合物
にとろかごうぶつ
nitro compound

狭義にはC-ニトロ化合物R-NO2(Rはアルキルアリールなどの炭化水素基)をさし、広義にはC-ニトロ化合物のほかに、N-ニトロ化合物(ニトロアミン)、O-ニトロ化合物(硝酸エステル)を含める。

[廣田 穰 2015年3月19日]

C-ニトロ化合物

ニトロ化合物の名称は、狭義には有機化合物の炭素原子にニトロ基-NO2が結合しているC-ニトロ化合物の総称で、亜硝酸エステルR-ONOの異性体にあたる。

 ニトロ基一つをもつモノニトロ化合物は一般に安定で、ニトロメタンやニトロベンゼンは蒸留することも可能である。しかし、二つ以上のニトロ基をもつものは自燃性が高く、爆発性のものが多いので取扱いには注意を要する。

 ニトロ化合物は脂肪族ニトロ化合物(表1)と芳香族ニトロ化合物(表2)に大別される。

[廣田 穰 2015年3月19日]

脂肪族ニトロ化合物

脂肪族の第一、第二ニトロ化合物は弱酸性で、アルカリ金属塩は水溶性であるが、重金属塩は不溶で爆発性がある。ニトロ化合物のアニオン(陰イオン)はアンビデント求核剤ambident nucleophileで反応相手の試薬により反応部位が異なる。

 試薬が酸塩化物の場合には酸素部位がアシル化され、さらに濃硫酸で分解されて、第一ニトロ化合物ではアルデヒド、第二ニトロ化合物ではケトンを与える(ネフ反応)。


 一方、カルボン酸のイミダゾリドを試薬として用いると、炭素部位がアシル化されてα(アルファ)-ニトロケトンを生ずる。


 ニトロ化合物を還元すればアミンを生ずる。


 第二、第三ニトロ化合物をトリブチルスタナンおよび少量のラジカル開始剤とともにベンゼン中で加熱すると、ニトロ基だけが水素原子で置換され、他の官能基はほとんど変化しない。


[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]

芳香族ニトロ化合物

芳香族ニトロ化合物は、大部分が水に不溶、有機溶媒に可溶の黄色結晶である。ニトロ基は強固に結合していて、特殊な多ニトロ体以外は、他の基で置換できないが、比較的容易に還元反応を受ける。酸性下では容易に還元されてアミンを与え、還元剤や反応条件を選べば、種々の有用な中間的還元生成物が得られるので、工業的にも重要な原料である。酸性還元ではアミンを生じ、中性還元では主としてヒドロキシルアミンを生ずる。塩基性還元によりアゾキシベンゼンアゾベンゼンヒドラゾベンゼンが得られる()。

 ベンゼン環に三つのニトロ基をもつ2,4,6-トリニトロトルエンはTNTとよばれ、爆発力が強いので火薬として用いられていて、その製造・所持は火薬類取締法により制限されている。普通の消費者がニトロ化合物を使用することは少ないが、メチルパラチオン(殺虫剤)やクロラムフェニコール(抗生物質)などの例がある。

[加治有恒・廣田 穰 2015年3月19日]

N-ニトロ化合物とO-ニトロ化合物

広義には、前述のC-ニトロ化合物だけでなく、窒素原子にニトロ基が結合しているニトロアミンや、酸素原子にニトロ基が結合している硝酸エステルを含めてニトロ化合物という。この場合、狭義のニトロ化合物をC-ニトロ化合物、ニトロアミンをN-ニトロ化合物、硝酸エステルをO-ニトロ化合物という。

 O-ニトロ化合物には火薬・医薬・合成樹脂として重要なものが知られている。ニトログリセリン(別名グリセロール1,2,3-三硝酸エステル)はグリセリン(グリセロール)の硝酸エステルで、爆発性が強く爆薬にもなるが、医薬としては狭心症の治療に用いられている。セルロースを硝酸と処理すると得られるニトロセルロース(セルロースの硝酸エステル)は塗料・セルロイド・火薬(綿火薬)などに使われている。

[廣田 穰 2015年3月19日]


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改訂新版 世界大百科事典 「ニトロ化合物」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化合物 (ニトロかごうぶつ)
nitro compound

ニトロ基-NO2が直接炭素原子に結合している化合物をいうが,広義にはニトロ基が酸素原子についたニトログリセリンニトロセルロース,窒素原子についたニトラミンを含む。脂肪族ニトロ化合物(ニトロメタン,ニトロエタンなど)と芳香族ニトロ化合物(ニトロベンゼントリニトロトルエンニトロナフタレンなど)に大別される。前者の合成法としては,(1)高温気相中で,炭化水素を50~70%硝酸あるいは四酸化二窒素と反応させる,(2)活性メチレン化合物に塩基と亜硝酸エステルを作用させる,(3)ハロゲン化アルキルに金属の亜硝酸塩(たとえば亜硝酸ナトリウムNaNO2,亜硝酸銀AgNO2)を作用させる,(4)オキシムを酸化する,などがある。芳香族ニトロ化合物は通常の芳香族炭化水素を濃硝酸や混酸(濃硝酸と濃硫酸の混合物)でニトロ化して得られるが,NO2⁺BF4⁻のような安定なニトリル化合物を用いて有機溶媒中で合成することもできる。また脂肪族ニトロアルカンは一般にやや毒性のある無色の液体で,ほとんど水に溶けないが,有機溶媒とはよく混じる。高い双極子モーメントと誘電率をもつ。第一および第二ニトロアルカンは,アシニトロ型(イソニトロ型ともいい,ニトロン酸と呼ばれる)との間に互変異性平衡があり,水酸化アルカリとの反応では塩を作る。



 芳香族ニトロ化合物は,黄色の液体または結晶で,一般に毒性が強い。トリニトロトルエン(TNT)はよく知られた爆薬である。芳香族ポリニトロ化合物は,電子受容体として作用し各種の化合物と電荷移動錯体を生成する。還元すると条件により,ニトロソ化合物,ヒドロキシルアミン,アミン,アゾ化合物など各種の窒素化合物を生ずるので,合成中間体としても重要である。
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化学辞典 第2版 「ニトロ化合物」の解説

ニトロ化合物
ニトロカゴウブツ
nitro compound

ニトロ基NO2を含む化合物の総称.普通,ニトロ基がC原子に結合している有機化合物をいうが,N原子に結合したN-ニトロ化合物や,O原子に結合した硝酸エステルも,広義のニトロ化合物という場合がある.脂肪族ニトロ化合物は,
(1)炭化水素に直接硝酸の作用,
(2)ハロゲン化アルキルに亜硝酸銀の作用,
(3)第三級C原子についたアミノ基の酸化,
などの方法により得られる.低級のものは無色の芳香ある液体で,沸点は比較的高いが,分解せずに蒸留される.水に難溶.ニトロ基の極性のため,3.5~4Dという大きな双極子モーメントをもつ.また,アルカリと塩をつくって水に溶ける.これは,ニトロ化合物が異性化してaci-ニトロ化合物をつくり,擬似酸としてはたらくからである.二重結合のC原子にニトロ基がついた化合物(α-ニトロオレフィン)は,アルデヒドやケトンと第一級ニトロパラフィンとの作用で得られる.低級のものは無色または淡黄色の液体で,強い催涙性がある.また,その二重結合が活性化され,付加反応や重合反応を起こしやすい.芳香族ニトロ化合物は,普通,芳香族化合物に直接硝酸を作用させてつくられる.この方法で合成することが困難な化合物は,ジアゾ反応や芳香族アミンの酸化などにより合成される.芳香族ニトロ化合物は,一般に有色の液体または固体で,水に溶けにくく,アルカリと塩をつくらない.ニトロ基は鉄と塩酸または接触還元によりアミンとなり,亜鉛末と塩化アンモニウム溶液でヒドロキシルアミンになる.

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百科事典マイペディア 「ニトロ化合物」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化合物【ニトロかごうぶつ】

ニトロ基−NO2をもつ化合物の総称。正確にはニトロ基が直接炭素原子と結合した化合物をいう。ニトロメタンCH3NO2,ニトロベンゼンC6H5NO2などが代表的な例。還元するとアミンRNH2が得られる。芳香族のニトロ化合物は濃硝酸と濃硫酸の混酸を芳香族炭化水素に作用させて得られる。有機化合物の合成原料,爆薬などとして重要なものが多い。
→関連項目ニトロ基

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ニトロ化合物」の意味・わかりやすい解説

ニトロ化合物
ニトロかごうぶつ
nitro compound

ニトロ基 -NO2 をもつ化合物の総称。ニトロアルカン,ニトロオレフィン,芳香族ニトロ化合物などがこれに含まれる。3個以上のニトロ基をもつ芳香族ニトロ化合物には,爆薬として用いられるものがあり,TNT,ピクリン酸などがその例。グリセリンやセルロースなどの硝酸エステルもニトログリセリン,ニトロセルロースと呼ばれることがあり,火薬として使われるが,厳密な意味でのニトロ化合物ではなく,硝酸エステルである。

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