トロオドン(読み)とろおどん(その他表記)Troodon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「トロオドン」の意味・わかりやすい解説

トロオドン
とろおどん
Troodon
[学] Troodon formosus

竜盤類獣脚類テタヌラ類コエルロサウルス類Coelurosauriaマニラプトル類Maniraptora原鳥類Paravesトロオドン科Troodontidaeに属する恐竜。よく知られた恐竜だが、後述のように学名の有効性を疑問視する意見もある。

 白亜紀後期カンパニアン期中ごろ~マーストリヒト期(約7600万年~6600万年前)の北アメリカ西部の低緯度から高緯度にかけて、化石が産出している。その解析によると、北極圏のアラスカでは他地域の個体に比べて大型化していた。全長約2.4メートル、推定体重50キログラム程度。二足歩行の肉食性で、頭骨は細長く眼窩(がんか)は大きい。歯の形状は特徴的かつ一つのあごで多様な形態を示し、小さく短く、大きなぎざぎざ(歯状突起)がわずかにある。獣脚類のなかでもとくに歯数が多く、下顎(かがく)だけで70本ある。後肢は長く、第2趾(し)に肥大した鉤(かぎ)づめを備えていた。近縁種では羽毛痕跡(こんせき)が確認されているため、羽毛に覆われていた可能性が高い。

 トロオドンは北米において最初期に命名された恐竜である。広く知られた属名だが、その分類は錯綜(さくそう)してきた。1856年に1本の歯化石に基づいて命名されたため、1920年代には、表面上は歯の形状が似るパキケファロサウルス類Pachycephalosauriaに属すると考えられた。しかし、1980年代に特徴的な下顎が発見されたことによって属名が復活した。1969年にステノニコサウルスStenonychosaurusと命名されていた骨格も、のちにトロオドンに分類された。しかし、2017年には、それまでトロオドンとされていた標本を再びステノニコサウルスと新属のラテニベナトリクスLatenivenatrixに分類する研究成果が発表された。ただし、この説には反論があり、トロオドンという学名が有効であると唱える学者もいる。したがって、今日に至るまでトロオドン命名の有効性は安定していない。なお、白亜紀後期の北米でみつかる断片的なトロオドン科化石は、トロオドンに分類される傾向がある。

 トロオドン科はおもに小動物を捕食していたと考えられ、一部には植物も食べていたとする説がある。非鳥類型恐竜としては脳が大きく、体のサイズに対する相対的な脳容量は現生鳥類に近い値である。ただし嗅覚(きゅうかく)は、平均的な非鳥類型獣脚類と同等であった。視蓋(しがい)(視覚と関係する脳の領域)が発達し、頭蓋(とうがい)骨の形状からある程度の両眼視も可能だったと考えられる。

 トロオドンは卵・巣・胚(はい)化石が発見されており、繁殖生態がもっとも詳しく研究されている恐竜類の一種である。クレーター状の巣に楕円(だえん)形の卵を地面に突き刺すようにして産み、雄が抱卵したとされる。巣は繰り返し利用していたようである。胚は74日程度で孵化(ふか)したと考えられる。孵化後の成長は比較的早く、骨格上の成熟を迎える前に性成熟し、繁殖可能となった。トロオドン科と考えられる卵殻化石は白亜紀後期の北半球を中心に広くみつかっており、国内では岐阜県高山市と兵庫県丹波(たんば)市での発見が報告されている。

[田中康平 2023年6月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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