シクロペンタジエン

化学辞典 第2版 「シクロペンタジエン」の解説

シクロペンタジエン
シクロペンタジエン
cyclopentadiene

C5H6(66.10).コールタールの低沸点留分,ナフサ分解副生油中に存在する.室温で容易に二量化してジシクロペンタジエンとなり,これを熱分解するとシクロペンタジエンを再生するため,通常,二量体として製品化される.工業的には,ナフサ分解副生 C5 留分中に10~25% 含まれるシクロペンタジエンを十分に反応させた後,蒸留分離し,精製してジシクロペンタジエンの製品とし,必要に応じてこれを熱分解し,シクロペンタジエンを得る.無色液体融点-85 ℃,沸点41 ℃.0.8048.1.4440.プロトンが引き抜かれて生成するシクロペンタジエニドイオンは,芳香族性を示す.シクロペンタジエンはディールス-アルダー反応共役ジエンとして有機合成に広く用いられるほか,一群のシクロペンタジエニル錯体が知られている.工業的用途としては,エチレンプロピレンゴムの第三成分エチリデンノルボルネン合成農薬原料などがあり,またジシクロペンタジエンから誘導される化学製品が,近年,種々開発され,新しい石油化学工業分野を広げつつある.[CAS 542-92-7]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「シクロペンタジエン」の意味・わかりやすい解説

シクロペンタジエン
しくろぺんたじえん
cyclopentadiene

環状ジエンの一つ。常温で無色の液体。独特の臭気をもつ。石炭乾留のガス軽油中に、またナフサ熱分解のC5留分中に含まれ、分留して得られる。工業的に多量生産されている炭化水素で、安価な工業原料である。反応性に富み、室温貯蔵中に2個の分子ディールス‐アルダー反応(ジエン合成)をおこし二量化してジシクロペンタジエンになる。二量体は無色の結晶(融点34℃)で、150℃以上に加熱すると、ふたたびシクロペンタジエンに分解する。通常、二量体で市販されるので、実験室では加熱分解して使用する()。

 シクロペンタジエンは1,3-共役ジエンなので各種の親ジエン剤とディールス‐アルダー反応を行う。反応性に富んだジエン剤として用いられるほか、工業的に農薬、殺虫剤、各種樹脂可塑剤の合成に使われる。塩基の作用で水素イオンが引き抜かれ、6個のπ(パイ)電子をもった平面構造を有するシクロペンタジエニル・アニオンを与える。これは芳香族性を有する代表的なアニオン種である。

[向井利夫]



シクロペンタジエン(データノート)
しくろぺんたじえんでーたのーと

シクロペンタジエン

 分子式 C5H6
 分子量 66.1
 融点  -85℃
 沸点  38~39℃/737mmHg
 比重  1.80475(測定温度19℃)
 屈折率 (n)1.444

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「シクロペンタジエン」の意味・わかりやすい解説

シクロペンタジエン
cyclopentadiene



環式不飽和炭化水素の一つ。石炭乾留時のガス軽油中に含まれ,また石油系ナフサ分解の炭素数5の留分にも含まれる。無色の液体で,独特の臭気があり,融点-85℃,沸点41℃。常温で放置すると容易に2分子が重合して,二量体であるジシクロペンタジエン(融点34℃)となる。この二量体を150℃以上に加熱すると再びもとのシクロペンタジエンが得られる。

したがって通常は二量体の形で市販されている。シクロペンタジエンは反応性に富む。そのメチレン基の水素は弱い酸としての性質を示し,金属カリウムと反応し塩をつくる。メチレン基の水素原子1個を失ったC5H5⁻イオンは安定な共役系をなし,ベンゼン類似の芳香族性を示す。シクロペンタジエンは,ディールス=アルダー反応の有用なジエンとして合成反応に用いられる(ジエン合成)。各種樹脂,農薬,殺虫剤などの出発原料となるが,石油分解生成物として比較的多量に得られながら,大量用途の開発はまだ遅れている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「シクロペンタジエン」の意味・わかりやすい解説

シクロペンタジエン
cyclopentadiene

C5H6 で表わされる液体。沸点 41.5~42.0℃。石炭ガス軽油から見出された。二量体のジシクロペンタジエン C10H12 に変りやすい性質をもつ。二量体は融点 32.5℃の結晶。蒸留するとシクロペンタジエンに分解される。ジエン合成の試薬である。

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