流動性選好説(読み)りゅうどうせいせんこうせつ(英語表記)liquidity preference theory

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

利子率は人々の流動性選好 (貨幣需要) とマネー・サプライとが均衡するところで決定されるという利子率決定の理論。 J.M.ケインズの『雇用・利子および貨幣の一般理論』で提唱された。貨幣需要は取引需要のほかに予備的需要と投機的需要とから成るが,人々が利子を生む証券代りに貨幣を保有するのは貨幣のもつ流動性を需要しているからである。貨幣は証券に比べて流動性が高いから,利子を犠牲にしても保有しようとする。しかし犠牲にする利子収入が大きいときには流動性選好は小さくなる。これは貨幣需要は利子率が高くなれば小さくなることを示している。一方,貨幣当局は公開市場操作を通じて貨幣の供給量を増減でき,これはまた利子の低下および上昇をもたらす。このようにして貨幣の増減を通じて利子率を変動させることが可能となる。

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百科事典マイペディアの解説

ケインズが提唱した利子率決定に関する理論。資産を貨幣で持っていれば,交換の容易性や元本の価値の安全性(これらを流動性という)を確保できるが,有価証券の形で持っていると流動性が失われる反面,その代償としての利子による収益性がある。資産保有者は流動性と収益性を比較してその保有形態を選ぶが,他方貨幣は中央銀行当局によって供給される。そして資産として保有する貨幣の需要(流動性選好)と貨幣供給量を一致させるように市場利子率が定まるとく。
→関連項目雇用・利子および貨幣の一般理論利子

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大辞林 第三版の解説

人々が、利子を生まない貨幣を他の金融資産よりも好んで保有するのは、貨幣のもつ流動性によるとするケインズの説。取引動機・予備的動機・投機的動機の三つの保有動機に基づく貨幣需要と、中央銀行が決定する貨幣供給が均衡する点で利子率が決まるとする。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

J・M・ケインズが『雇用・利子および貨幣の一般理論』(1936)において古典派実物利子論にかえて展開した利子率決定理論。古典派によると、利子は節約に対する報酬であり、貯蓄と投資によって利子率が決定される。すなわち、利子を実物現象とみて、貯蓄と投資の均衡によるフローの利子率決定理論が展開されている。一方ケインズは、利子を貨幣的現象とみなし、流動性を手放すことに対する報酬であると定義する。ケインズは、貨幣の需要と供給から利子率が決定されるとし、ストックとしての貨幣利子率決定理論を展開する。ここで流動性とは、損失なしに短期の予告でより確実に貨幣に交換しうる性質のことである。貨幣はもっとも流動的な安全資産であり、債券は流動性が劣るが利子という収益をもたらす収益資産であるから、流動性選好とは貨幣需要ということになる。
 貨幣需要の動機には、日々の取引を実施するために貨幣を保有する取引動機、不時の出費に備えて貨幣を用意する予備的動機、資本利得のための貨幣保有である投機的動機がある。ケインズは、取引動機と予備的動機による貨幣需要L1が所得Yと正に関係してL1(Y)となり、投機的動機による貨幣需要L2が利子率rと負に関係してL2(r)となって、rの上昇(下落)が債券需要を増やし(減らし)、貨幣需要を減らす(増やす)とする。現在では、予備的動機が所得よりも利子率に強く影響されるとして、予備的動機と投機的動機をあわせて資産動機としている。これをに示すと、L1は横軸に垂直に、L2は右下がりの曲線となり、全体の貨幣需要LL1(Y)+L2(r)となる。一方、貨幣供給量Mrに依存せず、貨幣当局によって決められるものとする。ML1に対応するM1と、L2に対応するM2とからなる。その結果、貨幣の需要と供給の均衡を示す次式が得られる。
  MM1M2L1(Y)+L2(r)
こうしてケインズは、利子率が貨幣需要(流動性選好)と貨幣供給の均衡点r*で決定されると主張する。
 日本経済は、1990年代末以降、利子率がゼロ近くまで下落し、貨幣を100%保有する「流動性のわな」に世界で初めて陥ってしまった。では、人々が利子率の最低水準と考えるにおいて、流動性のわなが生じている。[金子邦彦]
『J・M・ケインズ著、塩野谷祐一訳『ケインズ全集7 雇用・利子および貨幣の一般理論』(1983・東洋経済新報社) ▽D・レイドラー著、今井譲・石垣健一他訳『貨幣の経済学』(1989・昭和堂) ▽小野善康著『不況の経済学』(1994・日本経済新聞社) ▽深尾光洋・吉川洋編『シリーズ・現代経済研究19 ゼロ金利と日本経済』(2000・日本経済新聞社) ▽晝間文彦著『金融論』第2版(2005・新世社)』

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