日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドイツ料理」の意味・わかりやすい解説
ドイツ料理
どいつりょうり
ヨーロッパにはフランスをはじめ、各国それぞれの気候風土、産物、民族性、社会情勢などによって、異なる特徴をもつ料理がある。とくにドイツは、東西、南北に多くの隣国と地を接しているため、それら隣国の影響を受けた料理がかなりあって、ドイツ料理とよばれるものは非常に多い。また、第二次世界大戦前のドイツは、現在に比べてはるかに広かった。いまでは他国となってしまった地方の名のついた料理も、ドイツ料理としてりっぱに生きている。ドイツ料理は経済的で合理性のある家庭料理が多く、昔はラードの使い方に特徴があるといわれていた。
ドイツ料理といえば、まず煮込み料理があげられる。肉をラードでよく焼いてから、野菜とともにゆっくりと煮あげる。また、肉を塊のままでワイン、酢、ビールなどに4~5日間漬け込んでからラードで焼き、さらによく煮込むサワーブラーテンSauerbraten(ドイツ語)などは、ドイツの代表的な料理といえる。牛肉や豚肉の大きな塊、豚のすね肉、牛の舌などを塩漬けにしたものをゆっくりとゆであげて、そのゆで汁でキャベツなど野菜類を煮込み、ジャガイモを添えて食べる料理は、柔らかくさっぱりしている。
このほかに、ドイツ人が1日に一度はかならず食べるものに、ソーセージがある。各地方でつくられる数限りないソーセージ類があり、昔は同じ地方でも肉屋によって、独特の味がつくりだされていた。塩漬け肉の料理やソーセージなどは、昔冷蔵庫などなかったころの生活の知恵から生まれたものである。それが文化の発達した今日でも、懐かしいおふくろの味として人々から愛され、親しまれている。このほかドイツでは、シカ、イノシシ、ノウサギや野鳥類の料理も多く、これらの肉は臭みを除くためワインに1週間くらい漬け、ベーコンを差し込み、いろいろなスパイスを用いてサワークリームで煮込む、たいへん手のこんだ料理もあって、いまでも人々に愛好されている。これらは、かつて城主たちが狩猟のあと、料理して祝った名残(なごり)といわれる。一方、北海やバルト海に面した地方では、魚貝類を好んで食べる。カレイやニシンが多く用いられ、またウナギの薫製も好まれる食べ物の一つである。海のない中部から南の地方では、一般に川や湖の魚を食べる。季節の野菜や豆類を肉と煮込む鍋(なべ)料理は、アイントプフEintopf(ドイツ語)とよばれ人気がある。この料理には、おもに牛、豚、羊の肉が用いられる。秋になると、ドイツではキノコ類も好んで食べられている。
ジャガイモはドイツ人にとって、なくてはならない食料である。ドイツの主婦たちは、ジャガイモを使って多くの料理をつくりだす。そのほとんどは、肉や魚料理の付け合わせとして用いられるが、ほかに菓子のようなものもつくる。たとえばライベクーヘンReibekuchen(ドイツ語)は、ジャガイモをすりおろし水けを絞って卵を加え、ラードでパンケーキのように焼き上げ、リンゴのジャムをのせて食べる。また、ゆでたジャガイモをつぶし、小麦粉と卵を加えて練り合わせ、中にブランデーを含ませた角砂糖入りのプルーンやアンズを入れて団子をつくり、たっぷりの熱湯でゆであげる。これに粉砂糖とシナモンをふりかけて食べるフラウメンクリューセPflaumenklösse(ドイツ語)などのほかにも、何種類かの菓子をつくる。
第二次世界大戦前、彼らは1日に5回くらい食卓についた。早朝6時から7時ごろに、第一朝食としてコーヒーとともにロールパンにジャムや蜂蜜(はちみつ)をつけて食べた。10時ごろになると、黒パンにベーコンエッグやソーセージをのせて食べ、これを第二朝食とよんでいた。外に働きに出る人や学校に行く子供たちは、第二朝食としてサンドイッチを持って行った。昼には肉または魚料理をたっぷりと食べ、3時にはコーヒーと菓子をとる。ドイツの菓子は甘味が薄くさっぱりとしているため、2~3個はだれでも食べられる。夕食には各種のドイツパンに、ソーセージの薄切り、魚の薫製、サラダなどをのせて、オープン・サンドを各自でつくって食べる。今日では1日に三度しか食事をしなくなったが、育ち盛りの子供たちはいまでも第二朝食にサンドイッチを持って学校に行き、3時のおやつに菓子も食べている。
[エリーゼ・ケテル]