日本大百科全書(ニッポニカ) 「ドービニェ」の意味・わかりやすい解説
ドービニェ
どーびにぇ
Agrippa D'Aubignè
(1552―1630)
フランスの詩人。宗教改革派(カルバン派)貴族の家に生まれ、早くから人文主義的教育を受ける。父親の感化を受けて熱烈な新教徒であった彼は、16歳で宗教戦争に参加し、フランス宗教改革派の政治的指導者アンリ・ド・ナバール(後のアンリ4世)の側近に仕えた。アンリ4世のカトリック改宗後はこれを不満として宮廷を去り、1620年にはジュネーブに亡命、同地でその波瀾(はらん)に富んだ生涯を終える。
ロンサールに深く傾倒し、その影響下に、ディアーヌ・サルビアティ(ロンサールの歌ったカッサンドルの姪(めい))に捧(ささ)げる恋愛詩集『春』Le Printemps(1570~73ころ)を執筆する。1577年ころから戦火の間に執筆された長編詩『悲愴曲(ひそうきょく)』Les Tragiques(1616)は、フランス宗教改革派の叙事詩であり、そこには戦乱に対する悲憤、旧教徒に対する憎悪、新教徒の最終的な勝利への確信など、情熱的武人であった彼の情念や夢想のすべてを、激越な調子にのせて、不安の時代にふさわしい極彩色のイメージに託して描いたバロック詩の最大傑作である。ほかに、改革派の歩みをつづった『世界史』L'Histoire universelle、自伝『子らに語る』Sa vie à ses enfants、風変わりな散文風刺文学『フェネスト男爵の冒険』Les Aventures du baron de Foenesteなどがある。
[高橋由美子]
『成瀬駒男訳『フランス・ルネサンス名詩選』(『世界文学大系74 ルネサンス文学集』所収・1964・筑摩書房)』