フランスの詩人ブルトンの散文作品。1928年刊。26年10月、著者はナジャと名のる女と出会い、その魅力にひかれ、彼女とともにパリの各所をさまよう。妖精(ようせい)のように自由で、透視力さえもつと思われた彼女の導きによって、著者はさまざまな啓示を得る。だがナジャは狂人とみなされて精神科病院に収容され、意味深い挫折(ざせつ)が訪れる。現実に内在する「超現実」を実在の女性の行動に託して具体化しつつ、芸術と人生についての切迫した考察と、それを成り立たせる客観的記述方式とによって、シュルレアリスムの代表作となったばかりでなく、現代フランス文学の一極点をなす作品でもある。63年に「著者による全面改訂版」が出た。
[巖谷國士]
『巖谷國士訳『ナジャ』(1976・白水社)』▽『巖谷國士著『ナジャ論』(1977・白水社)』
フランスの詩人A.ブルトンの散文作品。1928年パリのガリマール書店刊。出版以来,シュルレアリスム運動の生んだ代表的文学作品として,また20世紀フランス文学の重要な成果の一つとして,広く読者を得ている。著者はパリの街角でナジャと名のる不思議な女と出会い,以来逢瀬を重ねる。現実に生きていながら妖精のように自由で,透視と予言の力をもつ彼女との付合いから,ブルトンはみずからの〈超現実〉の思想について種々の確信を与えられるが,彼女との関係を愛に発展させることはできない。結局ナジャは精神病院に収容され,ブルトンの探究は一時挫折する。本書はこの数ヵ月間のできごとの客観的記録とそれをめぐる考察から成り立っているが,その全体が〈シュルレアリスム〉の最も充実した表現となっているばかりでなく,書くこと,生きることについての根本的な問題提起にもなっている点で,きわめて貴重な作品である。62年ブルトンはこれを微妙に修正して,〈著者による全面改訂版〉(1963)を同書店から発表した。
執筆者:巖谷 國士
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 〈自動記述〉とその応用はブルトンの《溶ける魚》(1924)やペレの言語遊戯,デスノスの夢物語などに結実する。またアラゴンの《パリの土地者》(1926)やブルトンの《ナジャ》(1928)が夢や偶然や不可思議を記述し,〈超現実〉の散文化を試みて以来,小説の領域にも継承者が生まれ,のちのグラック,マンディアルグらの作品に新たな展開を見る。美術では,デュシャンの〈レディ・メード〉,キリコの〈形而上絵画〉の思想・方法を受けついだほか,〈自動記述〉の等価物とみなされたエルンストの〈コラージュ〉〈フロッタージュ〉が,言語によらぬシュルレアリスムの表現を可能にする。…
※「ナジャ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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