日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニカメイガ」の意味・わかりやすい解説
ニカメイガ
にかめいが / 二化螟蛾
Asiatic rice borer
rice stem borer
[学] Chilo suppressalis
昆虫綱鱗翅(りんし)目メイガ科に属するガ。はねの開張25~30ミリメートル。はねは細長く、前翅頂はとがる。前翅は一般に明るい藁(わら)色であるが、暗色のこともある。後翅は白色またはすこし暗色。雌は雄より大形で、はねの色がさらに白っぽい。イネ科の茎にはねを屋根形に畳んで静止していると、茎の色と同調して目だたない。
幼虫は、ニカメイチュウまたは単にメイチュウのほか、イネノズイムシまたは単にズイムシともよばれるイネの大害虫で、陸稲、トウモロコシ、キビ、ガマ、マコモなどいろいろなイネ科植物に寄生する。北海道のような寒冷地では年1回、ほかの地域では年2回発生するので、ニカメイガあるいはニカメイチュウという名は科学的にみて正しいとはいえない。成熟幼虫は、イネの藁や株内で越冬し、5月ごろに蛹(さなぎ)となり、第1回目の成虫が6月ごろに現れる。夜行性でよく灯火に飛来する。ガは、苗代や田植の終わった水田のイネに産卵する。一匹の雌は約300粒の卵をイネの葉先に産み付ける。約1週間で幼虫が孵化(ふか)し、若いイネの葉鞘(ようしょう)に孔(あな)をあけて中に食入する。そして葉鞘や茎の内壁を食べ、5回ほど脱皮し約40日で蛹となる。蛹期間は1週間余りで、8月下旬から9月上旬に第2回目のガが現れ、ふたたびイネに産卵する。第2回目の幼虫も茎に食入して内壁を食い荒らす。株分けが終わり、穂の出る茎に被害を与えるので、米の収量に直接影響を及ぼす。イネの刈り取りのころには、幼虫が成熟し、刈り取られた稲藁や切り株の中で越冬する。
ニカメイガはわが国の稲作にとってもっとも重要な害虫で、毎年全国的に発生し、20万~30万トンの減収の原因と推定されている。マコモに寄生した幼虫は、ほかのイネ科で育ったものより大きく、成虫も大形である。日本全土のほか朝鮮半島、中国、東南アジアの熱帯・亜熱帯からヨーロッパ南部に分布し、ハワイには近年侵入し土着した。稲作の伝播(でんぱ)とともに分布を広げていった昆虫の一つと考えられる。国外でもイネの重要害虫の一つとされる。
[井上 寛]