日本大百科全書(ニッポニカ) 「ニベ」の意味・わかりやすい解説
ニベ
にべ
[学] Nibea mitsukurii
硬骨魚綱スズキ目ニベ科に属する海水魚。日本の太平洋岸、日向灘(ひゅうがなだ)から松島湾にかけて分布し、外湾の砂質の浅海底に生息する。体はやや長く、側扁(そくへん)する。頭部側線感覚系の小孔が下顎(かがく)先端部に5個あることがニベの特徴。近縁種のコイチとは、体側の黒色斜走帯が体の上半部にも規則正しく並んでいることで区別される。産卵期は土佐湾で4月下旬より6月上旬。卵はきわめて小さく(0.7~0.8ミリメートル)、分離浮性卵を産む。抱卵数は体長35センチメートルの親魚で約60万粒。孵化(ふか)した仔魚(しぎょ)体長は1.6ミリメートルと著しく小さい。孵化後4日で3.2ミリメートルに達し、ワムシなどの動物性プランクトンを摂餌(せつじ)する。孵化後30日で約10ミリメートルの稚魚になり、以後、急速に成長する。満1年で約20センチメートル、2年で27センチメートル、3年で31センチメートルに成長し、極限全長は38.5センチメートル、まれに40センチメートルを超すものがある。食性は肉食性で、稚魚期にはオキアミなどの浮遊性甲殻類を、若魚期にはエビ・カニ類など表在性底生動物を、成魚になると小形魚類を捕食するようになり、その比率はしだいに高くなる。底引網や定置網によって漁獲され、投げ釣りの対象にもなる。塩焼き、てんぷらにされるほか、かまぼこの原料となる。
ニベ科Sciaenidaeは、スズキ型魚類の一グループで、タイ科やイサキ科に比較的近い仲間である。本科には汎(はん)世界種はほとんどなく、種数は多く、約200種が認められている。日本の近海には約35種が知られている。本科の特徴は尾びれ後縁がくさび形に突出していること、背びれ軟条部基底が長いこと、臀(しり)びれの棘(とげ)が2本であることなどである。内耳に大きい耳石(扁平石)を保有するため「イシモチ」とよばれることがある。うきぶくろには種によってさまざまな形の付属枝(気管)を備えている。腹腔(ふくこう)には側壁に沿って発音筋を備え、これを振動させてグッグッと鳴音を発する。うきぶくろは共鳴器となり、鳴音は種によって異なるといわれている。鳴音は産卵期にとくに大きく、群れの形成に役だっている。食性は一般に肉食性で、底生性無脊椎(むせきつい)動物および小形魚類を捕食する。一部の種は魚食性やプランクトン食性を示す。成長度は種によってさまざまで、日本でもっとも大きくなる種はオオニベで、全長130センチメートル、体重25キログラムであるが、外国では全長180センチメートル、体重60キログラムに達する種もある。他方、カンダリのように成魚でも15センチメートルほどにしかならない種もある。アメリカ東岸には大形種が多く、これらはゲームフィッシングの対象として好まれている。
東シナ海漁業の重要対象種が多く、かまぼこなど練り製品の良質の原料となるほか、古くから、そのうきぶくろは膠(にかわ)の原料として用いられてきた。消費地が産地に近い場合は鮮魚として種々の料理に用いられる。「にべもない」ということばは、鰾膠(にべと読み膠をさす)に由来し、否定形であるから、粘り気がない、愛想がないことを意味するが、肉の味とは無関係である。
[谷口順彦]