日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヌース」の意味・わかりやすい解説
ヌース
ぬーす
nūs
古代ギリシア語で「理性」の意。ただし、順を追って過程的に思考する推論理性ではなく、全体を一挙に把握する直観理性を意味した。したがってアリストテレスでは、理性(ヌース)は事物の本質を把握する能力、推論の原理を把握する能力を意味する。広義には、事物を弁別する能力、すなわち「分別」を意味した。ヌースをもつ人とは「分別のある人」である。
語源的には、「観(み)る」「識別する」「嗅(か)ぎ分ける」を意味する動詞ノエインnoeinに由来するが、初期の哲学者たちによって早くから、感覚の識別能力に対して、感覚に隠された事物の同一と差別を識別する高次の精神能力とされた。世界の原初にヌースがあると説いたアナクサゴラスが、アリストテレスとヘーゲルによって「酔いどれに混じる素面(しらふ)の人」として称揚されたことは著名である。
[加藤信朗]