古代ギリシア語で「理性」の意。ただし、順を追って過程的に思考する推論理性ではなく、全体を一挙に把握する直観理性を意味した。したがってアリストテレスでは、理性(ヌース)は事物の本質を把握する能力、推論の原理を把握する能力を意味する。広義には、事物を弁別する能力、すなわち「分別」を意味した。ヌースをもつ人とは「分別のある人」である。
語源的には、「観(み)る」「識別する」「嗅(か)ぎ分ける」を意味する動詞ノエインnoeinに由来するが、初期の哲学者たちによって早くから、感覚の識別能力に対して、感覚に隠された事物の同一と差別を識別する高次の精神能力とされた。世界の原初にヌースがあると説いたアナクサゴラスが、アリストテレスとヘーゲルによって「酔いどれに混じる素面(しらふ)の人」として称揚されたことは著名である。
[加藤信朗]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…彼は宇宙形成以前においては〈万物の種子(スペルマタspermata)〉と呼ばれる無限に多数の極微の物質が渾然一体となっていたと考えた。それらの種子はまた形,色,味,香などの点で多種多様であるが,この巨大な種子の集団に〈理性(ヌースnūs)〉が最初の一撃を与えることによって旋回運動が始まり,その運動は分裂を招き,分裂はまたあらたにさまざまの結合をもたらした。具体的な〈もの〉はこうした意味での結合体であるが,それぞれの結合体にはあらゆる種類の種子が含まれている。…
…人間が他のものを知る,すなわち他のものの形相を知るのは,こうした対応,類似を基礎にしているからとしか考えられまい。また彼によれば,それぞれの天体は〈不動の動者〉である永遠なる神,永遠の思惟活動を持続するヌースnousである神にあこがれて永遠の運動を続けている。地上の生物もやはり神的な永遠にあこがれ,自分と同種の個体を生みおとしながら永遠性の実現にいそしむ。…
…すなわち,感覚,欲望,情念のような感性的機能とは異なる,まったく理性的な精神作用の主体を指す言葉としてもこれが用いられた。この意味のプシュケーは理性を表すヌースnousに近く,ラテン語でこれに対応するのはメンスmensあるいはアニムスanimusである。プラトンの諸対話編にはこの第2の型の霊魂観が典型的に表現されており,理性的な霊魂の不滅が真剣な哲学的議論の主題になっている。…
…精神病【宮本 忠雄】
【哲学史における〈精神〉概念の変遷】
西洋哲学だけをとってみても,〈精神〉について実に多様な考え方がある。精神を究極の実在と見るいわゆる唯心論spiritualismにも,精神(ヌースnous)を世界原質である種子(スペルマタspermata)の混合原理と考える古代のアナクサゴラスや,聖霊Holy Spirit,Holy Ghostを遍在する神の息吹き(プネウマpneuma)と見る新約聖書,叡智(ヌース)を一者(ト・ヘン)に次ぐ実在と見るプロティノスなどのように精神を宇宙に遍在する霊的存在と考え,人間の精神や魂,霊をその一部と見る立場もあれば,近代の観念論哲学のように,認識する個体的意識を究極の原理と見る立場もある。しかし,いずれにせよ,精神は超自然的秩序に属するか,あるいはそれにつながるものと考えられている。…
※「ヌース」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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