先天的に無毛で胸腺(きょうせん)が欠損した、マウスの突然変異体。マウスには多くの無毛突然変異が知られているが、イギリスの遺伝学者フラナガンS. P. Flanaganによって1966年に報告されたものをヌードマウスといい、潜性遺伝子nude(略号nu)に支配される。この突然変異はいろいろの系統のマウスに発生するが、BALB/c、C3H、C57BLなどの系統のものがよく用いられる。ヌードマウスのもっとも重要な特徴は胸腺の先天的欠損であり、胸腺の免疫反応における意義を研究することに用いられる。このマウスには胸腺由来のT細胞がないので細胞性免疫応答がなく、液性免疫応答も不完全である。また細胞性免疫の欠損により移植片に対する拒絶反応がないため異種の動物組織を移植することが可能であり、ウサギ、ニワトリ、爬虫(はちゅう)類などの皮膚を移植して生着させることができ、ヒトの腫瘍(しゅよう)を移植して制癌(せいがん)剤の効果を試験するなど腫瘍の研究にも大きな役割を果たしている。しかし胸腺がないことと無毛の関係は明らかではない。
[大岡 宏]
先天的に無毛で胸腺を欠損している突然変異種のマウス。無毛と胸腺の欠損は,同一の遺伝子によって支配されていると考えられている。無毛の形質を支配する遺伝子nuのホモ接合体はヌードマウスになるが,ヘテロ接合体では正常である。ヌードマウスは1960年代の初めにグリストN.R.Gristによって発見され,胸腺が欠損していることが68年に報告されて以降,医学と生物学の広範な領域において実験動物として利用されている。胸腺が欠損しているために,T細胞をもたず,自己と非自己の認識ができない高度の免疫不全となる。このため,細菌やウイルスにきわめて感染しやすく,通常の飼育条件下ではすぐに感染症によって死亡するが,十分に管理された状態で飼育されると通常の寿命を保つ。ヌードマウスを用いて,胸腺についての免疫学的研究が広範に行われている。また高度の免疫不全のために異種動物の組織を移植されても拒絶反応が起こらないことから,ヌードマウスにヒトの癌組織を移植して,制癌剤の研究,癌細胞特異抗原の分析,癌細胞がつくり出す生理活性物質の研究,各種の癌治療方法の研究などが行われている。
執筆者:川口 啓明
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
体毛のない変異マウスで,胸腺(thymus)を欠くため免疫担当細胞の一種であるT細胞がない.免疫力が弱く,無菌環境下で飼育する必要があるが,異種細胞を移植しても拒絶反応が起こらないので,貴重な実験動物となっている.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…寿命は3年だが飼育下では6年の記録がある。 家畜化されたものは実験用や愛玩用とされ,体色は白や黒などさまざまで,全身無毛の〈ヌードマウス〉まである。これらのものは,ヨーロッパ産の亜種が家畜化されたものといわれる。…
※「ヌードマウス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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