ネコザメ

改訂新版 世界大百科事典 「ネコザメ」の意味・わかりやすい解説

ネコザメ (猫鮫)

ネコザメ目ネコザメ科Heterodontidaeに属する海産魚の総称,またはそのうちの1種を指す。顔つきがネコに似ていることに由来した名称で,サザエのような硬い殻をかみ砕くことができることからサザエワリ異名をもつ。英名はPort Jackson shark(オーストラリアの地名に由来),horn shark(角を有するサメ),bullhead shark(雄牛の頭のようなサメ)などという。オーストラリア,西部太平洋,東部太平洋,インド洋に8種生息する。化石種はヨーロッパにも出現するが,大西洋地中海には現生しない。

 日本近海にはネコザメHeterodontus japonicusシマネコザメH.zebraが分布し,前者は本州中部以南および朝鮮半島の沿岸域に分布し,後者は南日本から東インド洋諸島にかけて分布する。いずれも背びれの前縁に強大なとげがあり,しりびれを有する。口の前方の歯は3尖頭(せんとう)であるが,側方の歯は臼歯(きゆうし)状であるのが著しい特徴。ネコザメには7条の黒色横帯が,シマネコザメには約35条の暗色横帯が並ぶ。ともに全長1mほどになるが,ネコザメのほうがどっしりとしている。沿岸の海底に生活し,日中は岩の間に隠れ夜間に活動をする。強大なあごと歯で貝殻を砕き肉を食べる。卵生のサメで春から夏にかけてらせん状にねじれた円筒状の卵殻に包まれた受精卵を海底に産み出す。孵化ふか)した稚魚は卵殻内を活発に回転して成長し,ほぼ1年後に全長15~20cmとなり卵殻外に出る。刺網などで漁獲されるが,せいぜい練製品の原料となるくらいである。
サメ
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ネコザメ」の意味・わかりやすい解説

ネコザメ
ねこざめ / 猫鮫

軟骨魚綱ネコザメ目の科や属の総称、またはその1種の名称。ネコザメ科Heterodontidae(英名bullhead sharks)はネコザメ属Heterodontusの1属からなる。体が比較的短くて頭が丸みを帯びていること、背びれに強い棘(とげ)があること、臀(しり)びれがあることなどが特徴。ツノザメ類以外で背びれに棘をもつ唯一のサメである。属名は「異なった歯のサメ」の意味であるが、その名のとおり、あごの前部の歯と側部の歯の形態が大きく異なっている。すなわち、前部の歯は小形でとがっており、側部の歯は丸く肥大化して互いに密着している。前部の歯で餌(えさ)をとらえ、側部の肥大化した歯で餌の硬い殻を割って中身を食べる。別名サザエワリともいわれ、サザエのような殻の硬い貝類も割ることができる。ネコザメ類の生殖方法は短期型単卵生で、周囲に螺旋(らせん)状の張り出しをもった特殊な形の卵を産む。ネコザメ属には世界で9種が知られ、日本近海にはネコザメH. japonicusとシマネコザメH. zebraが分布する。

 種としてのネコザメ(英名Japanese bullhead shark)の産卵期は3、4月ころで、子は約1年後に15~20センチメートルに成長して孵化(ふか)する。全長70センチメートルくらいで成熟し、成魚は1.2メートルほどになる。本州中部以南の日本各地、東シナ海、台湾の沿岸などに分布する。国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、低懸念(LC)とされている(2021年9月時点)。

[仲谷一宏 2021年10月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ネコザメ」の意味・わかりやすい解説

ネコザメ
Heterodontus japonicus

ネコザメ目ネコザメ科の海水魚。全長 1.2m。体に比べて頭部が大きく,ネコの頭を思わせるのでその名がある。体は茶褐色で,濃褐色の幅広い横帯がある。眼の後下方に呼吸孔があり,二つの背鰭のそれぞれに大きなとげがある。産卵期は春から夏。卵殻は螺旋状の特殊な形をしている。歯が非常に強く,サザエの殻さえ割るためサザエワリと呼ぶ地方がある。肉は練製品の原料とされる。本州中部から東シナ海の沿岸に分布する。

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