マーク・トウェーンの小説。イギリス版1884年,アメリカ版85年刊。ヘミングウェーは〈すべての現代アメリカ文学はこの小説に由来する〉と述べたが,真にアメリカ的といえる文学伝統は,雄大なミシシッピ川を背景に,マーク・トウェーンの少年時代の思い出を叙事詩的につづったこの小説によって確立された。アメリカ南西部の閉鎖的な田舎町を飛び出した浮浪少年ハック・フィンは,ミシシッピ川を逃亡中の黒人奴隷ジムといかだで下りながら数々の冒険を重ねるが,単なる少年の冒険物語ではなく,それを通して文明と自然の根源的な対立や人種問題など当時のアメリカ社会の深刻な社会問題,そしてそれを通しての少年の人間的な成長など,アメリカ文学特有の主題が数多く追求されている。形式的には《トム・ソーヤーの冒険》の続編だが,主題のみならず,独自のユーモア,口語体の文体など,さまざまな面で,現代アメリカ文学の出発点にふさわしい,本格的な小説として評価されている。
執筆者:渡辺 利雄
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…彼のデビュー作《カラベラス郡の有名な跳び蛙》(1867)は西部開拓民の間に伝わる〈ほら話tall tale〉の語りの伝統を巧みに文学化した短編である。彼の最高傑作《ハックルベリー・フィンの冒険》(1885)は,自由と秩序,自然と文明などのアメリカ的テーマを集約しつつ無垢(むく)な少年の運命を語り,のちにヘミングウェーをして〈すべての現代アメリカ文学は《ハックルベリー・フィン》という1冊の本に由来する〉と言わしめた。 リアリズム全盛時代の文壇の大御所はW.D.ハウエルズである。…
※「ハックルベリーフィンの冒険」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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