アメリカの小説家。イリノイ州オーク・パーク生れ。ハイ・スクール卒業後,短い記者修業を経て第1次大戦末期の1918年,志願して傷病兵の輸送に当たり,イタリアで負傷。帰国後シカゴの作家S.アンダーソンの手引きもあって創作に志し,カナダの週刊紙の特派員を務めるかたわら,G.スタインやE.パウンドの助言のもとにパリで執筆に励む。《三つの短編と10編の詩》(1923)および短編集《われらの時代に》(1925)は,医師である父親の手ほどきを受けて北部ミシガンの自然のなかで釣りや猟銃の腕を磨いた少年時代から,戦地で瀕死の重傷を負うまでの作者自身の体験を,つとめて抽象化をさけた独特の即物的な文体で描く,切れ味のよい秀作を多数収めている。しかもここに見られるいくつかのテーマ,例えば暴力と死の脅威にさらされた世界の不条理性の自覚,救いようのない戦いを強いられながら勇気ある敗者の誇りを貫こうとする不屈の意志,そして空虚な観念よりも純粋な感覚の充足に確実なよりどころを求める生き方などは,その後のすべての作品の基調を予告する。1926年の《日はまた昇る》は,パリにたむろするアメリカ,イギリスの〈国籍離脱者〉たちの無軌道な生活と,その底にひそむストイックな〈おきて〉への信奉ぶりを通じて大戦後の精神の荒廃を描き出す傑作として,作者を一躍〈ロスト・ジェネレーション〉の代弁者の地位に押し上げた。鍛えぬかれた羅列的口語体を駆使して刻々と展開する〈なまの現実〉を再現し,強烈な臨場感を与える彼のスタイルは,この作品と次の《武器よさらば》(1929)で完成の域に達し,多くの模倣者を生んだ。
その後の彼は,一種の時代の偶像として,アフリカでの猛獣狩り,スペイン内乱での救援活動,第2次大戦への参戦,再訪したアフリカでの飛行機事故,キューバ沖での海釣りなど,そのタフな活躍ぶりが逐一報道されるほどの名声を得たが,作家としての幅の狭さや歴史的・社会的意識の欠如に対する批判,ことに往年の自己抑制力を失って短所ばかりの目だつ《持つと持たぬと》(1937)や《川を渡って木立の中へ》(1950)の不評に苦しんだ。その間,短編集《勝者には何もやるな》(1933)での成果,スペイン内乱を描く《誰(た)がために鐘は鳴る》(1940)の商業的成功,そして闘牛と猛獣狩りを扱うノンフィクション《午後の死》(1932)と《アフリカの緑の丘》(1935)の執筆などが特記される。のち,老いた漁師と大魚の神話的な死闘を語る《老人と海》(1952)で再び腕のさえを示した彼は,1954年ノーベル賞を受賞したが,61年猟銃で自殺をとげた。死後《移動祝祭日》(1964)などが出た。
執筆者:川本 皓嗣
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1899~1961
アメリカの小説家。第一次世界大戦後パリに赴き,戦後の青年たちの虚無とデカダンスに満ちた生活を描き「失われた世代」の代表的作家となる。代表作に『武器よさらば』『誰がために鐘はなる』ほか。1954年ノーベル文学賞受賞。
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…彼のデビュー作《カラベラス郡の有名な跳び蛙》(1867)は西部開拓民の間に伝わる〈ほら話tall tale〉の語りの伝統を巧みに文学化した短編である。彼の最高傑作《ハックルベリー・フィンの冒険》(1885)は,自由と秩序,自然と文明などのアメリカ的テーマを集約しつつ無垢(むく)な少年の運命を語り,のちにヘミングウェーをして〈すべての現代アメリカ文学は《ハックルベリー・フィン》という1冊の本に由来する〉と言わしめた。 リアリズム全盛時代の文壇の大御所はW.D.ハウエルズである。…
…また《戦場よさらば》(1932。原作は《武器よさらば》),《誰が為に鐘は鳴る》によって,〈完ぺきなヘミングウェー・ヒーロー〉とも評される(実際,ヘミングウェーはクーパーを念頭において《誰が為に鐘は鳴る》の主人公ロバート・ジョーダンを書いたともいわれる)。カウボーイ,漫画家を経て,1926年に映画俳優としてデビュー。…
…そうした作品を壁一面に掛けた彼女の家は,長い間パリ在住の前衛芸術家や作家のサロンとなり,彼女の新しいものの見方,機知などが,多くの芸術家を引きつけ,育てた。なかでも彼女の散文から最も多くを学んだのは,まだ若い無名作家だったヘミングウェーである。フローベールの《三つの物語》(1877)とセザンヌの婦人像の影響下に書いたという小説《三人の女》(1909)で,彼女は徹底的にアメリカ口語を用い,句読点の破格使用と単純な文章の重複からなる個性的な文体を確立した。…
…(3)スペインの進路は,宿命的にヨーロッパの掌中に握られていた。(4)内乱像は,外国の諸新聞や世界的に著名な作家(ヘミングウェー,マルローら)の手によって固定化した。これらは一様にスペイン文化を評価し,さらに共和国陣営からの見聞であった。…
…ハードボイルド・ディテクティブといえば,往年の映画俳優ハンフリー・ボガートがよく主演した探偵もの映画の主人公のように,無口で無表情,眉ひとつ動かさず大胆なことをやってのけるような探偵,ということになる。ヘミングウェーの短編《殺し屋たち》(1927)のような作品,D.ハメット,R.チャンドラーなどの探偵小説は,いわゆるハードボイルド・ノベルの典型である。また感情表出を極度に切り詰め,事件や行動だけを簡潔に表現するような文体,芸術一般の表現様式にもこれを使うことが多い。…
…アメリカの小説家ヘミングウェーの小説。1929年刊。…
…〈失われた世代〉と訳される。ヘミングウェーの《日はまた昇る》(1926)の題辞に引用されたG.スタインの言葉(You are all a lost generation)に由来するこの呼び名は,直接的にはこの小説で描かれているように,大戦の生々しい傷痕をかかえて1920年代のパリにたむろした虚無的,享楽的なボヘミアンたちを指す。一方,文学史の用語としてはとくにヘミングウェー,F.S.K.フィッツジェラルド(《夜はやさし》でこの世代の精細な心理描写を行った),E.E.カミングズ,J.ドス・パソスら,既存の権威やモラルの徹底した洗い直しと,大胆な手法上の実験とによってアメリカ文学に新時代を開いた作家や詩人の一群をいう。…
※「ヘミングウェー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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