バシェ(その他表記)Jacques Vaché

改訂新版 世界大百科事典 「バシェ」の意味・わかりやすい解説

バシェ
Jacques Vaché
生没年:1895-1919

フランスの詩人ブルターニュ地方ロリアンに生まれる。若くして文才示し,象徴主義やポー,マラルメらの影響をうかがわせる詩を発表。第1次大戦に動員されて負傷し,16年にナント野戦病院に入院,ここでA.ブルトンを知る。動員解除後ナントでアヘン吸飲が過ぎたために急逝した。なにごとをも拒否し極端化し,〈脱聖化〉せずにはやまないその精神はブルトンに多大の影響を与え,〈バシェは私においてシュルレアリストである〉と言わしめた。いわばダダの直前に,ダダ精神の権化ともいうべきかたちで現れて去った人物であった。戦中ブルトン,アラゴンらに送った手紙が《戦争書簡》としてまとめられている。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「バシェ」の意味・わかりやすい解説

バシェ
ばしぇ
Jacques Vaché
(1895―1919)

フランスの詩人、画家。ブルターニュのロリアンに生まれる。1914年第一次世界大戦に動員されたが翌年負傷し、ナントで看護を受ける。16年にこの地でブルトンと出会い、さまざまな言動私信死後に『戦時の手紙』として出版)によってブルトンに影響を与える。19年初頭、当地で1人の友人とともに多量のアヘンを吸飲して死んだが、自殺の疑いもある。ジャリらに連なるユーモアとダンディスムの表現、また初期アメリカ映画などへの嗜好(しこう)の側面で、シュルレアリスム先駆をなすとされる。しかし実際にはほとんどなにひとつ作品を残しておらず、むしろブルトンの内部に形づくられた意味深い「分身」として位置づけるべき人物であろう。

巖谷國士

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「バシェ」の意味・わかりやすい解説

バシェ
Vaché, Jacques

[生]1896
[没]1919
フランスの詩人。 A.ジャリの『ユビュ王』 (1896) の破壊的ユーモアをシュルレアリスムに引継いだ人物として知られる。 1916年ブルトンはナントでバシェに会い,その激しい否定精神から強い影響を受けた。唯一の作品『戦争書簡』 Lettres de guerre (1919) は,シュルレアリスムの起源を示すもの。 19年1月に自殺した。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、和歌山県串本町の民間発射場「スペースポート紀伊」から打ち上げる。同社は契約から打ち上げまでの期間で世界最短を目指すとし、将来的には...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android