日本大百科全書(ニッポニカ) 「ばらの騎士」の意味・わかりやすい解説
ばらの騎士
ばらのきし
Der Rosenkavalier
オーストリアの劇作家ホフマンスタール台本、リヒャルト・シュトラウス作曲の楽劇。三幕。1910年完成。翌11年ドレスデン初演。マリア・テレジア治下1740年代のウィーンを舞台に、ワルツにのって繰り広げられる華麗な恋愛喜劇。当時の貴族社会では、婚約のしるしに男性から女性へ銀のバラを贈る習慣があった。田舎(いなか)貴族で俗物のオックス男爵が富裕な新貴族の娘ゾフィーと婚約し、彼の親戚(しんせき)にあたる元帥夫人は銀のバラを届ける「ばらの騎士」に自分の若い恋人オクタビアン伯爵を選ぶ。ところがオクタビアンとゾフィーはたちまち恋に落ち、貪欲(どんよく)で好色なオックスの鼻を明かして、2人はめでたく結ばれ、元帥夫人は身を引く。モーツァルト時代のオペラ・ブッファに似た擬古的な台本であるが、「銀のバラの動機」に象徴される斬新(ざんしん)な和声法によって、シュトラウスは作品に独特の雰囲気を与えることに成功した。
うつろいゆく若さをはかなむ元帥夫人のモノローグ(第一幕)、オクタビアン(女性歌手が演じる)とゾフィーが出会う場面のきらめくような官能的デュエット(第二幕)、3人の女性歌手がそれぞれ個性を主張する三重唱(第三幕)など名場面が多く、まさに世紀末の退廃的な甘美さにあふれたオペラといえよう。日本初演は1956年(昭和31)。
[三宅幸夫]
『内垣啓一訳『薔薇の騎士』(『ホーフマンスタール選集 第四巻』所収・1973・河出書房新社)』