改訂新版 世界大百科事典 「バンチェン」の意味・わかりやすい解説
バンチェン
Ban Chieng
タイ北東部,ウドンタニ県の同名の村にある墓地遺跡。低い台地上の集落内に発見された。クリーム色のスリップ(化粧土)の上に,赤鉄鉱の粉末で彩文を施した土器で有名になった。初期の調査により青銅器時代の所産とされ,熱ルミネッセンス法による年代測定の結果,前4000年というきわめて古い年代が提示されたことから大きな問題を投げかけることになった。調査は1967年以来継続されているが,正式報告に類するものはまったくなく,発掘者の意見もしだいに変わっているため,現在もなお確実なことはいえない。しかし,土器は黒色で刻文による渦巻文のものから,幾何学文を刻んだ上に彩色したもの,次に刻文なしの彩文となり,さらに赤いスリップのみのものへと変化するといわれる。そして有刻彩文の時期に鉄が導入され,バンチェン陶と呼ばれる彩文土器は鉄器時代とされている。その年代は青銅器の出現が前3000年,鉄器が前1600年,彩文土器が前1000年とされるが,この年代決定にはさまざまな疑問がある。年代測定法自体への疑問,サンプル採集法の適否,層序的把握の不十分さなどが指摘されており,大半の考古学者は否定的である。彩文土器の出現は,西暦紀元前後と考えて大過ないであろう。なおこの遺跡の新石器時代の層からもみが出土したといわれている。また青銅器は鉄器時代も含めて多数発見されている。鋳型も発見されているので,この地で青銅器が作られていたことは確実であり,優れた技術をもっていたことが判明している。彩文土器は整形上は基本的に縄蓆(じようせき)文の拍打法の伝統上にあり,焼成後にスリップをかけて彩文を施している。
この種の土器を出す遺跡は近辺に多く発見され,その多くは日本を含め海外に流出した。その結果,この地において文化の興隆した時代を明らかにすべき遺跡が,盗掘によって破壊されることになったのは惜しまれる。葬制などについては,現状では言及すべきであるまい。
執筆者:重松 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報