バンデの反乱(読み)バンデのはんらん

改訂新版 世界大百科事典 「バンデの反乱」の意味・わかりやすい解説

バンデの反乱 (バンデのはんらん)

フランス革命下に西部のバンデVendée地域を中心にして起こった最大の反革命的農民反乱。どうしてこのような大規模な反革命反乱が生じたか,確かな定説はないが,地形的に交通困難なこの地方の閉鎖性,後進性,さらに貧困な農民と領主・カトリック教会とのとりわけ強固な結合関係が,この反乱の背景をなしていたと考えられている。とくに聖職者は革命に服さず,反乱以前から聖職者基本法に同意しない多数の宣誓拒否聖職者が出ていた。

 反乱の直接のきっかけとなったのは,1793年2月国民公会の可決した30万人の動員令であった。3月10日の志願兵抽選の日に,軍役に抗議する農民蜂起が多数の村落で発生し,ショレを拠点としてこの地域のロアール川左岸一帯を支配下におさめた。やがて反乱は小貴族や行商人カトリノーのような平民を指導者とし,4万人のカトリック王党軍を組織する。反乱軍はソミュール,アンジェを占領,ロアール川右岸にも進出する。これに対して政府は,反徒の死刑や〈焼土作戦〉の採用を宣言する一方,鎮圧のためにマインツ駐屯部隊などの共和国軍部隊を新たに投入した。その結果,反乱軍側は6月29日のナント攻略失敗を境にしてしだいに劣勢に追い込まれていった。反徒4万人(うち戦闘員は2000人)はこの窮地を脱するためロアール川を渡河して北上し,イギリスからの援軍の上陸を期待してブルターニュの港市グランビルへ向かった。11月14日,反乱軍はグランビル郊外に到達したが,兵力も装備も不十分なため市の軍事的攻略を断念し,反転して南下し,政府軍の追撃による多大な損害を受けながらアンジェ,ル・マン,ナントへと逃避行を続け,12月23日,サベルネでついに殲滅せんめつ)された。しかしその後もシュアヌリle chouannerieと呼ばれる敗残の反徒による反抗がゲリラ戦のかたちをとって続行された。シュアヌリとは,農村地帯に出没するゲリラがフクロウ(シュアンchouan)の鳴声で合図したからとも(ふくろう党les chouans),あるいは反徒の指導者の一人ジャン・コトローJean Cottereauの偽名ジャン・シュアンJean Chouanからきているともいわれる。彼らは革命派の役人や宣誓聖職者,売却された国有財産を取得した住民などを襲撃したり,街道の通行を妨害したりして住民や行政機関を脅かした。しかしこれも,反徒の免罪と補償金の授与,没収されていた財産の返還,軍役の一時免除などを取り決めた95年2月14日と5月2日の和平条約によりほぼ終結させられた。さらにその直後,同年6月にバンデの反乱に呼応してイギリスからバンデに近いブルターニュ半島のキブロン島に上陸したフランス亡命貴族の部隊も,オッシュ将軍の共和国軍により撃退され,捕虜となった,約750名の亡命貴族は銃殺刑に処せられた。

 この反乱が反革命的性格をもつといわれるゆえんは,反乱の指導者に王党派の小貴族や聖職者を含み,征服地において教会の十分の一税の復活や国有財産売却の無効・返還を決定し,一部の指導者は国王ルイ17世の即位まで宣言したことなどにある。しかし反乱農民はただ反革命的貴族や聖職者の扇動に盲目的にのみ従って行動していたとばかりは考えられない。そこで反乱全体の性格を真に把握するためには,反乱の主体をなした下部の農民集団の次元にまで下降し,彼らが何ゆえに,何を目ざしてこの反乱に参加したのかをあらためて考察しなければならないが,いまだ確定することができないというのが現状である。

 この反乱中,反乱軍,政府軍双方によって,兵士や住民,捕虜に対してきわめて残忍な処刑殺戮(さつりく)が各地で多数行われた。とくにナントで国民公会議員カリエの指導により実行された大量の銃殺刑,溺死刑はよく知られており,約6000名の反徒とみなされた囚人がほとんど裁判を受けることなく処刑された。なお,ユゴーの歴史小説《93年》や,バルザックの小説《ふくろう党》などには,この革命期の反乱のありさまと背景がよく描かれている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のバンデの反乱の言及

【農民反乱】より

… 第4には,近代への移行期に特徴的な,反資本主義,反中央,反都市の蜂起であり,農業の資本主義化に対し共同体的権利を守り,中央権力の統制に対し地方の自由を主張し,都市の支配に対し伝統的農村社会の優位を対置する。フランス革命期のバンデの反乱(1793‐95)にはこのような特徴が強く認められる。 第5には,とくにアジア諸国などに顕著に見られるもので,民族主義の傾向を強く示す農民反乱である。…

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