木彫りの一種で、鳥を原寸大に彫り上げ、細密な彩色を施したもの、またはそれらをつくること。これとよく似たものにデコイdecoyというアメリカ独特の民族芸術がある。デコイは本来ハンターが猟のおとりに使用するもので、彫刻や彩色は簡素で素朴である。これに対し、今日的な意味におけるバードカービングでは、趣味としてだけでなく、鳥類保護の観点から博物館などで展示する実物の剥製(はくせい)にかわるものをつくることもある。したがって、羽の枚数、嘴(くちばし)の長さ、目の大きさなどすべて本物の鳥どおりに再現する。
[内山春雄]
バードカービングを広く鳥の彫刻と考えれば、古代エジプト王国時代の木彫浮彫りの代表作であるサッカラのヘシ・ラー墳墓内部の壁面に飾られていた板張りの浮彫りのなかに、タカらしきものが彫られている。日本にも世界最古の現存の木造建築物である法隆寺の天蓋(てんがい)に鳳凰(ほうおう)が浮彫りされている。優れた美術作品としては、詩を愛し、木彫を愛した高村光太郎の『うそ』『白文鳥』があり、郷土玩具(がんぐ)として太宰府(だざいふ)天満宮の「鷽(うそ)」も一種のバードカービングといえよう。
一方、猟に使われたデコイの名の由来はイギリスに始まる。17世紀ころのイギリスのカモ猟には、当時のイギリスの厳しい階級制度が反映していた。水鳥は皇室の所有物であり、狩猟の権利はギルドや貴族に貸し与えられるものであった。私有池にはオランダ人の考え出したおとり(eende-kooi)が仕掛けられ、カモをおびき寄せていた。イギリス人がオランダ人のこの仕掛けを採用して以後、デコイとよぶようになった。デコイは、このころ自由な天地を求めて移住を始めた開拓団とともにアメリカに渡り、18世紀から19世紀にかけて、カモなどの水鳥猟も盛んになるとともに、デコイも大量生産されていった。カモ猟のおとりであるから、遠くからみてなんとなく鳥の形をしていればよいわけなので、最初は単純素朴な形をしていた。その後、時代とともにすこしずつ変化していき、バードカービングと同様に本物とそっくりのものも現れ、アメリカでは古きよき時代のノスタルジアをかきたてる置物として、人工的環境に囲まれて生活している現代人に人気をよんでいる。アメリカのアンティーク・デコイのなかには数万ドルの値のついたものもある。
バードカービングの生みの親ともいえるデコイづくりは、近年の自然破壊に反対する自然保護の潮流とも密接に関係している。それはまず、野鳥を傷つけることなく身近に置く楽しみが得られるうえに、迫真的な鳥を彫るためには、鳥の生態も研究しなければならず、バードウォッチングが不可欠となってくる。
近年になって博物館でも鳥類保護の観点から、剥製にかわって木彫りの鳥を展示するところが増えている。剥製は鳥を殺さねばならないうえに、羽毛の色があせやすく、虫がつきやすいなど管理がたいへんであるが、木彫りなら色あせても塗り直しがきくし、目の不自由な人が触れることもできるという長所がある。近年この木を素材として野鳥の姿をそのまま再現するバードカービングは、新しい工芸として広まってきており、愛好者が増えている。
[内山春雄]
簡単に作り方を順を追って説明する。角材に鳥の上面図を写し、下図(したず)に沿って鋸(のこぎり)で荒切りする。ナイフで形をつくっていく。次に鳥の側面図を角材に写し、鋸で荒切りし、ナイフで形をつける。やすりで形を整えながら丸みをつけ、頭・目・嘴・翼の位置を設計図で確かめながら彫刻刀で削る。丹念にやすりをかけて仕上げる。次に針金にクラフトテープを巻いて足をつくり、胴体につける。下塗り剤を塗り、アクリル絵の具で彩色し、目と嘴につや出し剤を塗る。
[内山春雄]
『日本鳥類保護連盟編『バードカービング』(1983・講談社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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