改訂新版 世界大百科事典 「ヒカゲチョウ」の意味・わかりやすい解説
ヒカゲチョウ (日陰蝶)
Lethe sicelis
鱗翅目ジャノメチョウ科の昆虫。中型で開張5.2~6.3cm。暗褐色で裏面に数個の眼状紋がある。木陰に好んで生息するのでこの名がある。日本固有種で,本州,四国,九州の中部以北に分布する。関東地方や中部地方の低地帯には個体数が多い。食草のメダケ,アズマネザサ,ゴキダケなどの群落(ササやぶ)を伴う落葉広葉樹林にすみ,ときにイブキザサなどが密生するブナ帯のササ原に見られることもある。本州中部の低地帯では通常年2回発生し,成虫は5月中旬~6月下旬,7月下旬~9月中旬ころ現れるが,9月下旬~10月下旬ころ第3回目の個体が羽化することがある。成虫はクヌギ,コナラ,タブノキなどの樹液やモモなどの落果によく集まるが,ほとんど花を訪れることがない。おもに夕方活動し,雄は地上1~3mくらいの枝先にとまり,なわばりをつくる。幼虫の食草は主としてタケ科植物で,雌は食草の葉裏に1個ずつ産卵する。幼虫で越冬。
ヒカゲチョウ属のチョウはヒマラヤから中国南・西部,台湾にかけての地域に種類数が多く,約60種が知られている。ジャノメチョウ科としては中型種で,褐色系のじみなものが多い。いずれも森林性で,日陰を好む傾向が強く,多くは夕方または早朝によく活動する。幼虫の食草はタケ科またはイネ科。幼虫は緑色または褐色で,なかには黄色や褐色の斑紋を伴うものもある。ヒカゲチョウ以外に日本には次の3種が産する。
クロヒカゲL.dianaはやや小型で色彩はさらに暗く黒褐色。国内分布はさらに広く,北海道や対馬にも分布する。クロヒカゲモドキL.marginalisはやや大型で翅に丸みがあり,裏面の眼状紋は大きく,ことに前翅の3個はよく目だつ。本州,四国,九州に局部的に分布し,幼虫はイネ科のススキ,アブラススキなどを食べる。シロオビヒカゲL.europaは西表島,石垣島に分布し,幼虫はタケ科のホウライチクなどを食べる。
執筆者:高橋 真弓
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報