タブノキ(読み)たぶのき

日本大百科全書(ニッポニカ) 「タブノキ」の意味・わかりやすい解説

タブノキ
たぶのき
[学] Machilus thunbergii Sieb. et Zucc.
Persea thunbergii (Sieb. et Zucc.) Kosterm.

クスノキ科(APG分類:クスノキ科)の常緑高木。イヌグスともいう。高さ15メートル、胸高直径1メートルに達する。幹は暗褐色、枝は緑色で赤みを帯びる。葉は厚く、倒卵形、長さ8~15センチメートル、裂くと芳香がある。花は5月、枝の先から出た円錐(えんすい)花序につき、黄緑色を呈する。果実は球形の液果で、黒紫色に熟す。本州(青森県、岩手県以西)、四国、九州、沖縄、朝鮮半島、中国、フィリピンに分布し、暖地や沿海地の山中に生える。タブノキ語源は不明。

 葉を蚊取り線香に、樹皮線香染料に利用する。また材は器具材、家具材、建築材としても用いられる。

[門田裕一 2018年8月21日]

文化史

魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』(3世紀)に倭国に産する木としてあげられたなかの豫樟(よしょう)をタブノキとする見方がある(山田宗睦(むねむつ)(1925―2024)『魏志倭人伝の世界』)。『日本書紀』(神代紀)で、素戔嗚尊(すさのおのみこと)は浮宝(うくたから)(船)に杉と豫樟をあげる。『万葉集』の大伴家持(おおとものやかもち)の歌「磯(いそ)の上の都万麻(つまま)を見れば根を延(は)へて 年深からし 神さびにけり」(巻19)の都万麻もタブノキと解釈されている。縄文時代から利用され、福井県鳥浜貝塚から出土した木鉢一つはタブノキ製と推定されている。

[湯浅浩史 2018年8月21日]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「タブノキ」の意味・わかりやすい解説

タブノキ
Machilus thunbergii

クスノキ科の常緑高木。イヌグスともいう。暖地の照葉樹林の代表的な樹種で関東地方より西の海岸近くに自生し,中国から東南アジアまで分布は広い。葉は長楕円形で表面には光沢があり,裏面は白緑色で,枝先に多数が群がって互生する。初夏に,枝の先端に円錐花序をなして多数の花をつける。おしべは 12本あり,3本ずつが4輪をなし,最内部の3本は仮雄ずいとなる。果実は扁球形で黒紫色に熟する。樹皮から染料をとり,黄八丈の染色に用い,また樹皮を粉末にして線香の原料にする。

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