日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヒルベルトの問題」の意味・わかりやすい解説
ヒルベルトの問題
ひるべるとのもんだい
ドイツの数学者ヒルベルトは1900年パリの第2回国際数学者会議で数学における問題のもつ重要性を論じ、自ら23の問題を提起した。これが「ヒルベルトの問題」である。
まず、一般論としてヒルベルトは「科学のある分野が豊富な問題を提供する限り、それは生命に満ちあふれている」と述べ、人間の事業がすべてある目的を達成することにあるのと同様、数学には問題が必要だとする。
困難な問題は刺激的であり、それを解決することが、新しい一般的な視野を獲得することにつながる例がしばしばある。ときには、与えられた仮定の下で要求された意味で、もとの問題を解くことが不可能である、ということもおこる。三大作図問題、五次方程式の代数的解法といった問題は、解こうとする努力が失敗したのは当然であったことが証明された。
以上のような問題に対する見解とともに、すべての問題はかならずなんらかの意味で解けるものであるという確信が述べられている。ヒルベルトの問題は実際多くの優れた数学者を魅了し、20世紀数学の発展に多大の寄与をした。1人の数学者の一種の直観的洞察力から全分野にわたってこれだけ当を得た幾多の問題が一時点で述べられたというのは驚くべきことである。
なかには第三問題(底辺と高さの等しい二つの四面体の等積性)のようにその年のうちに解けてしまったものもあるが、第10問題(ディオファントス方程式の可解性の決定)のように1970年になって解決されたものもある。またなかには第八問題(リーマン予想)のように多くの結果を生みながらも未解決の問題もある。
なお、第九問題(一般相互律の証明)は高木貞治(ていじ)‐アルティンの類体論により解決されたが、これは日本人によるヒルベルトの問題への寄与というだけではなく、予想を上回るみごとな解決という点でも注目すべき業績である。
[足立恒雄]
『ヒルベルト著、一松信訳『ヒルベルト 数学の問題』(1969・共立出版)』