代数体上のアーベル拡大、すなわちガロア群がアーベル群であるような拡大体の一般論が類体論である。したがって、とくに有理数体上のアーベル拡大である円分体論や二次拡大の理論である平方剰余の理論を包含する。
類体という概念はヒルベルトによって1898年に導入された。代数体kのガロア拡大Kがkの類体であるとは、kの一次素イデアル(すなわち絶対ノルムが素数となる素イデアル)が単項イデアルである場合、またその場合に限ってKの一次の素イデアルの積に分解されるときである。このヒルベルトの類体は現在は絶対類体とよばれている。kの絶対類体をKとするとき、次のような定理が成り立つ。(1)Kはk上アーベル拡大で、そのガロア群はkのイデアル類群に同形である。(2)Kはk上の最大不分岐アーベル拡大である。(3)Pをkの素イデアルとし、fをPfが単項イデアルとなる最小自然数とすると、KにおいてPは
P=P1……Pg,fg=[K:k]
と素イデアル分解される。
これらをヒルベルトが予想し、フルトベングラーPhilipp Furtwängler(1869―1940)が1907年に解決した。高木貞治(ていじ)は絶対類体の考えを一般アーベル拡大にまで拡張し、前記の諸定理に対応する類体論の基本定理を証明した(1920)。その後アルティンは一般相互法則をみつけ、アーベル体論を完成した。類体論は日本人による最初の数学上の世界的貢献であるとともに、その体系の美しさにより現代数学のなかでも特別の位置を占めている。
[足立恒雄]
19世紀の終りころに,D.ヒルベルトが基本的な予想を提出し,1920年ころに高木貞治が一般的な証明を与えた代数体の整数論における重要な理論。ヒルベルトは,代数体の拡大K/kの中で,とくに相対アーベル拡大,すなわち,そのガロア群がアーベル群であるようなガロア拡大の一般論を構成することおよびそのような観点から相互法則を研究することを提唱し,拡大次数が2の場合にその理論を展開した。さらに一般的な場合に関するいくつかの予想を述べ,とくにkの不分岐なアーベル拡大Kで,そのガロア群がkのイデアル類群と同型であり,kの素イデアルのKでの分解の形が,その素イデアルが属するkのイデアル類により定まるようなものが存在することを予想し,これをkの類体と名づけた。これらの予想は,フルトベングラーP.Furtwängler(1869-1940)が証明を与えたが,高木貞治は,イデアル類群や類体の定義を拡張して,これらの結果を特別な場合として含む一般の相対アーベル拡大の理論を構成し,類体論を自然で応用範囲の広いものにした。さらにE.アルティンは,イデアル類群とガロア群との同型がアルティン写像と呼ばれるもので与えられることを示した。これは種々の相互法則を含むものであり,一般相互法則と呼ばれている。その後も,シュバレーC.Chevalley(1909- ),エルブランJ.Herbrand(1908-32),H.ハッセらによる証明の簡易化や算術化,中山正(1912-64),アルティン,テートJ.T.Tate(1925- )らによるコホモロジー論の応用などにより,豊富な内容を含む理論となった。
執筆者:斎藤 裕
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その解決に日本の数学者が直接,間接に寄与しているものも少なくない。とくに数論に関するもの二つは高木貞治の提唱した類体論によって解決された(1920)。 ヒルベルトは代数学の不変式論の研究から出発し,幾何学基礎論,ついで数論,積分方程式論,ポテンシャル論などの研究に移り,晩年は数学基礎論に専念した。…
…第1次世界大戦中より,代数体のアーベル拡大の数論についての研究を進め,20年《東大紀要》に発表。それが〈高木類体論〉として世界に知られるようになった。今世紀の数論のもっとも重要な結果の一つである。…
※「類体論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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