日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェナントレン」の意味・わかりやすい解説
フェナントレン
ふぇなんとれん
phenanthrene
3個のベンゼン環が縮合した芳香族炭化水素。アントラセンと異性体の関係にある。
無色板状結晶で、ベンゼン、エーテルには溶けるがアルコールには溶けにくい。1872年ドイツのR・フィティッヒにより、コールタール中に存在することがみいだされ、主としてアントラセン油から分離される。またスチルベンの光による環化・脱水素反応によっても得ることができる。
アントラセンより共鳴エネルギーは大きく(387.5kJ/mol)、安定である。溶液は青色の蛍光を放つ。クロム酸を用いて酸化すると、フェナントレンキノンが得られる。求電子置換反応を受けるが、多置換体や混合物になるので、誘導体を純粋に合成するのにはハウワース法が優れている。染料、医薬品の合成原料として重要である。
[向井利夫]