フェナントレン(読み)ふぇなんとれん(その他表記)phenanthrene

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フェナントレン」の意味・わかりやすい解説

フェナントレン
ふぇなんとれん
phenanthrene

3個のベンゼン環が縮合した芳香族炭化水素アントラセンと異性体の関係にある。

 無色板状結晶で、ベンゼンエーテルには溶けるがアルコールには溶けにくい。1872年ドイツのR・フィティッヒにより、コールタール中に存在することがみいだされ、主としてアントラセン油から分離される。またスチルベンの光による環化・脱水素反応によっても得ることができる。

 アントラセンより共鳴エネルギーは大きく(387.5kJ/mol)、安定である。溶液青色蛍光を放つ。クロム酸を用いて酸化すると、フェナントレンキノンが得られる。求電子置換反応を受けるが、多置換体や混合物になるので、誘導体を純粋に合成するのにはハウワース法が優れている。染料、医薬品の合成原料として重要である。

[向井利夫]


フェナントレン(データノート)
ふぇなんとれんでーたのーと

フェナントレン

 分子式 C14H10
 分子量 178.2
 融点  99.15℃
 沸点  340℃
 比重  1.175(測定温度25℃)
 屈折率 (n)1.645

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改訂新版 世界大百科事典 「フェナントレン」の意味・わかりやすい解説

フェナントレン
phenanthrene


芳香族炭化水素の一つ。ベンゼン環が3個縮合した分子構造を有する化合物。やはりベンゼン環が3個縮合した形のアントラセンとは縮合の位置が異なる異性体である。石炭乾留で得られるコールタールを分留する際のアントラセン油中に含まれ,精密蒸留により分離する。青色の蛍光を有する無色の板状結晶で,融点99.15℃,沸点340℃。水に不溶,クロロホルム,ベンゼンなどの有機溶媒に可溶。酸化するとフェナントレンキノンに,還元すると各段階の水素化化合物になる。ハロゲン化,ニトロ化,スルホン化を受け,塩化物,ニトロ化物,スルホン酸となる。染料の原料として用いられる。
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化学辞典 第2版 「フェナントレン」の解説

フェナントレン
フェナントレン
phenanthrene

C14H10(178.23).石炭タールのアントラセン留分中に含まれ,精留によって分けられる.結晶.融点101 ℃,沸点340 ℃.1.213.λmax 250,293,300,346 nm(log ε 4.7,4.1,2.5,2.5,エタノール).ベンゼン,エーテルに易溶,エタノールに可溶.溶液は青い蛍光を発する.クロム酸で酸化するとフェナントラキノンを生じる.刺激性物質.[CAS 85-01-8]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フェナントレン」の意味・わかりやすい解説

フェナントレン
phenanthrene

化学式 C14H10 。無色の結晶。融点 100℃。縮合環式芳香族炭化水素の一つで,コールタール中に含まれる。ベンゼン,エーテル,アルコールなどに可溶で,溶液は青白色のケイ光を発する。ピクリン酸,ジニトロベンゼンなど芳香族ニトロ化合物と分子化合物をつくる。発癌性をもつと考えられている。

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百科事典マイペディア 「フェナントレン」の意味・わかりやすい解説

フェナントレン

三環式の縮合環をもつ芳香族炭化水素C14H1(/0)。無色の結晶。融点99.15℃,沸点340℃。水に不溶,エタノールに難溶。染料,樹脂,医薬の原料。タール中のアントラセン油の分留によって得られる。(図)

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