改訂新版 世界大百科事典 「フォイニクス」の意味・わかりやすい解説
フォイニクス
Phoinix
もともと〈深紅色〉を意味する古代ギリシア語で,この名をもった神話・伝説中の2人の人物と1羽の鳥が有名。慣用ではフェニックスPhoenix。(1)フェニキア王アゲノルAgēnōrの子。ゼウスにさらわれた妹エウロペの捜索を父王に命じられ,兄弟のカドモスらとあてのない旅に出たが,ついに見つけられなかったため故国には帰らず,シドン(またはテュロス)に定住して王となった。フェニキア人なる民族名は彼の名に由来するという。(2)英雄アキレウスの養育者。ボイオティア地方のエレオン王アミュントルAmyntōrの子。母の頼みで父の妾を誘惑したことが知れて国をすてたが,プティア王ペレウスの厚遇を受けてテッサリア地方のドロペス人の王に任じられ,ペレウスに一子アキレウスが生まれると,その養育をゆだねられた。のち老齢の身ながらアキレウスとともにトロイア戦争に出征,ホメロスの叙事詩《イーリアス》で有名なアキレウスとギリシア軍の総大将アガメムノンの不和対立のおりには,両者の和解に努めた。(3)不死鳥。前5世紀の歴史家ヘロドトスがエジプトのヘリオポリス(〈太陽の都〉)で聞いた話として伝えるところによれば,大きさと姿形はワシに似ているが,羽は赤と金色で,500年に1度,死んだ父鳥を太陽神の社に葬るべく,没薬(もつやく)に塗りこめたその遺骸を運びながら,はるばるアラビアからエジプトに飛来する聖鳥という。のちローマ帝政期に,フォイニクスは香木でつくった巣の中でみずから焼死し,その灰の中から再び若鳥となってよみがえるという伝説が語られはじめ,3~4世紀のキリスト教著作家ラクタンティウスに帰せられるエレゲイア詩《フォイニクス》では,この鳥がキリスト復活の象徴として描かれている。
執筆者:水谷 智洋
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報