翻訳|myrrh
ミルラともいう。カンラン科(APG分類:カンラン科)Burseraceaeコミフォラ属Commiphoraの木本植物からとれるゴム樹脂を集めたもの。古代エジプトで薫香料、ミイラ製造時の防腐剤に用いられ、聖書にも貴重な品物として記述されている。この植物はアフリカ北東部、アラビア半島、インドの岩石の多い乾燥地帯に分布し、約100種を含む。高さ3~10メートル、樹皮は灰白色、短い枝はのちに長刺になり、小さな3小葉からなる複葉をもち、雌雄異株。幹の皮部と髄の離生分泌腔(こう)に黄白色の油性ゴム樹脂を形成し、風害などにより皮部に損傷を生ずると外部に滲出(しんしゅつ)し、乾燥して黄褐色ないし赤褐色の堅い塊となる。精油3~10%、樹脂25~45%、ゴム質50~60%、水分5%、その他3~4%からなり、収斂(しゅうれん)、鎮痛作用があるので、腫(は)れ物、外傷、打撲傷、痔漏(じろう)、筋肉痛の治療に外用し、歯齦(しぎん)炎、咽頭(いんとう)炎の含嗽(がんそう)料とし、歯みがき粉にも加えることがある。
品質のもっともよいヘラボール・ミルラ(ソマリ・ミルラ)は、ソマリア、アラビア半島南部に分布するC. myrrha (Ness) Engl.(C. molmol Engl.)から得られる。アラビア・ミルラはエチオピア、ソマリア、イエメンの高地に分布するC. habessinica (O.Berg) Engl.(C. abyssinica 〈Berg.〉 Engl.)、C. schimperi (Berg.) Engl.から、ビサボール・ミルラはソマリア、エチオピア東部に分布するC. erythraea (Ehrenb.) Engl. var glabrescens Engl.から得る。なお花(はな)没薬と称するものは、東南アジアで各種植物の枝に寄生したラックカイガラムシの分泌物であり別物である。
[長沢元夫 2020年9月17日]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
薬名。アラビア南西部山岳地帯の数ヵ所と対岸の東アフリカのソマリアの一定地域に限定されて生育するカンラン科Commiphora属植物の樹皮の樹汁を自然乾固した赤褐色の植物性ゴム樹脂。基原植物によって品質に差があり,アラビア没薬,ソマリア没薬は良質,同じソマリア産でもビサボール没薬は劣る。偽没薬としてはインド産のブデリアムが古くから知られた。外国の生薬名はミルラmyrrha,myrrhで,これについては,キプロス王キニュラスの娘で父親に対する邪恋の罪で木に姿をかえられたミュラMyrrhaにちなむという言い伝えがある。〈没薬〉は中国で名づけられた漢薬名。没薬は古代からオリエントで焚香料,香膏や香油の賦香料として用いられ,エジプトのミイラ作りに欠かせぬ香薬だった。医薬用には収斂(しゆうれん)薬として用いられていたが,現在は口中の炎症にうがい薬とするにすぎない。日本には南蛮貿易によって伝わり,ポルトガル語ミルラmirra,mirrhaをミイラと呼んだ。しかしこの本体を中国でいう木乃伊(ムーミイ)(ペルシア語由来とされ,アラビア語ではmumiya,ラテン語のmumia,現称のミイラ)に当てたため混乱を生じ,ミイラは没薬でなくなって,現称の意味に定着してしまった。
執筆者:宗田 一
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出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…樹脂は香,薬用,油脂原料に用いられる。聖書にも出てくる乳香(にゆうこう),没薬(もつやく)はそれぞれカンラン科ボスウェリア属Boswelliaおよびコンミフォラ属Commiphoraの樹木の樹脂で,古くから祭式の香として用いられた。また木材としても広く利用され,なかでも熱帯西アフリカのオクメAucoumea klaineana Pierre(英名okoume)の材は淡色,軽軟で加工しやすい良材である。…
…こうしてヨーロッパ人による大航海時代が展開されたのであるが,すべては南アジアのスパイス獲得と支配から出発したのであった。 と言えば簡単なようであるが,紀元前の古代オリエントとエジプトが,アラビア南部と東アフリカ奥地とつながりがあったのは,乳香,没薬(もつやく)と実体不明の肉桂(シナモン,カシア)のためである。紀元前後にローマ人,ギリシア人が,インド洋のモンスーンを利用しインド渡海を敢行したのは,胡椒を中心とするインドの薬物,化粧料,木綿,中国の絹などの獲得のためであった。…
※「没薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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