フォガッツァーロ(読み)ふぉがっつぁーろ(英語表記)Antonio Fogazzaro

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フォガッツァーロ」の意味・わかりやすい解説

フォガッツァーロ
ふぉがっつぁーろ
Antonio Fogazzaro
(1842―1911)

イタリアの作家。ビチェンツァの宗教的、愛国的環境の家庭に生まれ育った。一貫してカトリックの立場から、人間の内面と社会とのかかわり方を追究し続けた。実証主義ダーウィンの進化論、また社会主義などを通した視点で、カトリック内部の腐敗糾弾。処女作『マロンブラ』(1881)から『ダニエーレ・コルティス』(1885)を経て名声を獲得、代表作『小さな古い世界』(1895)に至る。これはリソルジメント(国家統一)の時代を背景に、ブルジョア階級の危機的状況における夫婦の愛の物語である。この作品の中心問題である信仰が、続く『聖者』(1905)で直接的に提示され、その教会改革案ゆえに教皇庁による禁書処分を受けた。ほかに「イタリアの小説の未来」などの講演もあり、カトリックを抱え持つイタリアの世紀末の知識人として、そして特異なデカダンスを具現する作家として、彼が「小さな古い」世界の対極に何をみようとしていたのか、今日的関心をよぶ。

[望月紀子]

『小野村林蔵・吹田佳三訳『聖者』(1912・警醒社書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フォガッツァーロ」の意味・わかりやすい解説

フォガッツァーロ
Fogazzaro, Antonio

[生]1842.3.25. ビチェンツァ
[没]1911.3.7. ビチェンツァ
イタリアの小説家。 19世紀後半に流行したベリズモ文学に対抗して,繊細な心理描写を手段に理想主義文学を唱えた。処女長編『マロンブラ』 Malombra (1881) で世評を集め,続く『ダニエーレ・コルティス』 Daniele Cortis (85) と『詩人の秘密』 Il mistero del poeta (88) で不動の地位を築いた。自己の哲学的宗教心を開陳した『古き小世界』 Piccolo mondo antico (95) は読書界に大きな反響を巻起し,その続編『現代の小世界』 Piccolo mondo moderno (1901) ,『聖者』 Il santo (06) も大きな関心を集めたが,『聖者』は,主人公が教皇に宗教改革を進言する場面があることから教皇庁の忌諱に触れ,以後すべての作品が禁書目録に加えられた。

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