改訂新版 世界大百科事典 「フォガッツァーロ」の意味・わかりやすい解説
フォガッツァーロ
Antonio Fogazzaro
生没年:1842-1911
イタリアの小説家。当時オーストリアの統治下にあった北イタリアのビチェンツァの富裕な家庭に生まれる。青年期,深刻な宗教的危機に陥ったが,やがてカトリックの信仰に戻る。1874年,まず抒情詩人として文学界にデビューし,次いで81年,《マロンブラ一族》を発表して小説家の道を歩み始める。おりしも同世代のベルガがベリズモ(真実主義)の最高傑作《マラボリア家の人々》を世に問うた年にあたるが,フォガッツァーロの方は,ロマン主義の色濃い,貴族趣味も顕著な,反自然主義の小説世界を追求し,宗教的神秘主義の大家となった。前期の諸作品にもすでにうかがわれる,カトリックの信仰と科学とりわけ進化論の両立,宗教的愛と官能的愛の葛藤の問題は,評論で論じられたほか,後期の四部作,すなわち代表作の《古き小さな世界》(1895),《新しき小さな世界》(1900),《聖者》(1905),《レイラ》(1911)の主要テーマとなり,最後の2作は教会の禁書目録に載ったりもしたが,基本的にはカトリシズムの枠を出ない保守的なブルジョアの文学であり,当時はダンヌンツィオとならんでおおいにもてはやされたが,今日その評価は低い。
執筆者:林 和宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報