デカダンス(読み)でかだんす(英語表記)décadence フランス語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「デカダンス」の意味・わかりやすい解説

デカダンス
でかだんす
décadence フランス語

退廃主義。頽唐(たいとう)派ともいう。衰微衰退を意味する語で、ギボン著『ローマ帝国衰亡史』(1776~88)に読まれるように、ローマ帝国が爛熟(らんじゅく)から衰退、破滅に向かう過程の病的で享楽主義的文芸の風潮をさすことば。19世紀末フランスにおいて、ボードレール、ベルレーヌマラルメ、ランボーらの悪魔主義、象徴主義の影響を受けたモーリス・ド・プレッシー、ロダンバック、ラフォルグら一群の象徴派詩人たちが自らをデカダンとよんだことから、世紀末的文芸思潮の呼称となる。彼らはユイスマンスの小説『さかしま』(1884)の反社会・反道徳性を模倣し、人工美や醜悪なものに美をみいだすことに耽溺(たんでき)した。イギリスのスウィンバーンワイルド、わが国では木下杢太郎(もくたろう)を中心とする「パンの会」(1908~12)の文学運動にこの傾向がみられる。

[船戸英夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「デカダンス」の意味・わかりやすい解説

デカダンス
décadence

「衰退」を意味するフランス語で,ローマ帝国の末期や江戸化政度の文化的爛熟のはての頽唐をいうが,特に 19世紀末のフランスに興った文学的傾向をさし,世紀末芸術,象徴主義と同義に使われる。ボードレールを先駆とするベルレーヌ,マラルメ,ユイスマンスら象徴派の詩人たちによって代表され,ベルレーヌの詩句「われはデカダンス終末の帝国」によって広く流布した。伝統的な規範や道徳に反発して,病的な情調を重んじ,極端に洗練された技巧を尊び,異常,珍奇,退廃的な美を追求する耽美的な傾向を示す。ユイスマンスの小説『さかしま』 (1884) に最も端的な表現を得た。イギリスでは,その影響によってペーターの流れをくむオスカー・ワイルドを中心に,ダウソン,ビアズリーらの「世紀末文学」が出現した。

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