フラクタル(読み)ふらくたる

日本大百科全書(ニッポニカ) 「フラクタル」の意味・わかりやすい解説

フラクタル
ふらくたる

自然界には、たとえばリアス海岸の海岸線や、空に浮かぶ雲の形、河川の本支流の形、動物の体内に広がっている血管分布の形、あるいは樹木の枝の形など、数学の初等幾何で扱う円や三角形、球、直方体などの整った形とは異なって不規則で複雑な図形が至る所に存在する。数学の古典的な微分法は、どんなに複雑なようにみえる形(曲線)であっても微分が可能である、つまり、全体としては曲がっていても、それを十分に細かく分解していけば、細分された部分はやがて直線と見分けがつかないほどになってしまう、いいかえれば十分に細分された微小部分は直線で近似的に表すことができる、という前提のもとに発展してきた。ところが前記のような自然界にみられる形はその図形を分解していって、その一部を取り出して拡大してみると、元の全体の図形と同じような複雑な図形を依然としてもっている。

 いま、どのように分解してもその部分が元の全体と同じ形を備えている図形を数学的に考える。このつねに元の形の縮小した形を備えているという性質自己相似性という。自己相似性を備えた図形は、その微小部分が線分に近似できないから微分が不可能である。フラクタルとはそのような自己相似性を備え、どこでも微分が定義できないような形(集合)をいい、それを扱う数学をフラクタル幾何学という。

 このことばはフランスのマンデルブロB. B. Mandelbrot(1924―2010)がつくったもので、語源はラテン語のfractasであり、「破片」「分割」を意味する。

 フラクタルは定量的にはフラクタル次元(相似性次元)で表される。この次元は普通にいう一次元(線)、二次元(平面)、三次元(立体)といった整数で表される次元と異なり、非整数の値も含む次元であり、一般的には次元の高い図形のほうがより複雑で不規則な図形といえる。フラクタル図形は、現在、コンピュータで容易に描くことができ、コンピュータ・グラフィクスの分野で発展した観がある。事実、フラクタルは微分不可能であるため、コンピュータによる解析やシミュレーションが不可欠であり、コンピュータとともに発展した幾何学といえる。その対象には前記のような自然界のさまざまな形のほか、天体の分布、地震の発生頻度、ランダムウォーク流体や高分子構造などきわめて広範囲であり、その研究と成果が注目される。

栗原 裕]

『高安秀樹著『フラクタル』(1986・朝倉書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フラクタル」の意味・わかりやすい解説

フラクタル
fractal

自己相似性をもつ図形。地図上のリアス海岸線の形などのように,一部分を拡大すると元の図形と似た図形になる性質をもつ。フラクタルには,次のようにして,フラクタル次元という数が定義できる。一つの図形を大きさが rN 個の要素(線分,正方形,立方体など)で覆い,r を小さくすると NrD が比例するとき,D をフラクタル次元という。フラクタルは,海岸線の長さの測定に関連して,ブノア・マンデルブローによって 1980年に提唱されたもので,これを基礎概念とした幾何学をフラクタル幾何学という。ちなみに,三陸海岸のフラクタル次元は約 1.35である。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報