日本大百科全書(ニッポニカ) 「フランプトン」の意味・わかりやすい解説
フランプトン
ふらんぷとん
Kenneth Frampton
(1930― )
イギリス生まれのアメリカの建築批評家、建築史家。サリー県生まれ。1956年、ロンドンのAAスクール(Architectural Association School)を卒業。兵役を経て、61~66年の間に、カルミ+ヤシャー/エイタン事務所(イスラエル)、ダグラス・スティーブン+パートナーズ(ロンドン)で建築家として働いた。そのかたわら、『アーキテクチュラル・デザイン』Architectural Design誌の編集にも携わった。
66年に渡米。66~72年の間プリンストン大学で教えた後、コロンビア大学に移籍。コロンビア大学建築都市計画学部教授。以後同大学を拠点に教育活動、建築史研究、建築批評をはじめとする著述活動を行う。72~82年には、ニューヨークのIAUS(建築都市研究所)で主導的立場をとり、機関誌『オポジションズ』Oppositionsの編集長も務めた。その間、建築批評、近代建築論において多くの論文を執筆する。
60年代後半以来のモダニズム批判論を経てポスト・モダン論議が盛り上がっていた80年代前半に、フランプトンは現代建築の状況をより明確に示す目的で、「ネオ・プロダクティビズム(新生産主義)」「ネオ・ラショナリズム(新合理主義)」「ストラクチャリズム(構造主義)」「ポピュリズム(大衆主義)」「リージョナリズム(地域主義)」という5類型を提示した。なかでも、フランプトンはリージョナリズムの建築家を擁護し、後に、近代建築が世界に普及するなかで失われた地域固有の伝統的な技術文化と建築にまつわる感性を近代建築の遺産である構造のなかに統合する「批判的地域主義」を提唱した。論文「批判的地域主義に向けて」は83年に評論家ハル・フォスターHal Fosterが編集した『反美学』Anti-Aestheticに発表され、大きな反響を呼んだ。
元建築家であるフランプトンの建築史研究や批評には、建築の構造、構法、材料、材質を包括的に分析する視点が表れている。著書『テクトニック・カルチャー』Studies in Tectonic Culture(1995)では、「結構的(テクトニック)なるもの」に対する考察を通じて、19~20世紀の建築史を再考し、様式の歴史とは異なる、建設の技芸としての建築史を描き出した。
そのほかの著書に『近代建築』Modern Architecture(1980)などがある。
[秋元 馨]
『菊池誠訳「アメリカ1960―70 都市のイメージと理論に関してのノート」(八束はじめ編『建築の文脈・都市の文脈――現代を動かす新たな潮流』所収・1979・彰国社)』▽『小林克弘訳「現代建築における五つのイズム」(『a+u』1981年10月号・エー・アンド・ユー)』▽『室井尚・吉岡洋訳「批判的地域主義に向けて――抵抗の建築に関する六つの考察」(ハル・フォスター編『反美学――ポストモダンの諸相』所収・1987・勁草書房)』▽『松畑強・山本想太郎訳『テクトニック・カルチャー――19―20世紀建築の構法の詩学』(2002・TOTO出版)』▽『Modern Architecture; A Critical History (1980, Thames and Hudson, New York)』