改訂新版 世界大百科事典 「ブギス族」の意味・わかりやすい解説
ブギス族 (ブギスぞく)
Bugis
インドネシアのスラウェシ(セレベス)島の南西半島(南スラウェシ州)に居住する種族。人口350万(1971)。ブギスはインドネシア語の呼称で,ブギス語ではウギッUgi’という。半島の南端に住むマカッサル族とは言語,文化とも類似点が多く,ブギス・マカッサル族と一括して称されることもある。焼畑もかなり行っていたが,現在はほとんど水稲耕作で,トウモロコシ,バナナの栽培やチョウジ,ココヤシのプランテーションにも従事している。海岸部では漁業およびエビ,サバヒーの養殖業が盛んである。
14世紀前後からルウ,ボネ,ワジョなどの王国が成立した。それら王国は全スラウェシにみられる天孫降臨神話と各王家に伝わる聖器によってその正統性を主張し,王族は白い血をもっていると信じられた。王族と一般庶民と下層民とは出自によって厳格に区別された。双系制親族組織であるが,いとこ婚による血統の保持と親族集団の結束とが顕著である。17世紀初頭にイスラムに改宗し,インドネシアにおけるイスラム信仰の中心の一つとされるが,ヒンドゥー教の影響を受けた土着のブギス的伝統も強く残している。たとえば女装をしたビッスーは現在でも儀礼の際の重要な司祭であり,樹木・聖所崇拝,祖先崇拝も盛んである。ブギス族は東南アジア海域世界において,海賊,傭兵,商人として著名であり,オーストラリア北岸,ニューギニア,大陸部東南アジアの沿岸にその活動は及んでいる。この原動力は,優れた造船・航海術,漂海民の伝統,圧政への対抗手段としての移住の慣行のほかに,17,18世紀にはとくに地域間交易経済の発展と,内乱による政治的不安定があげられる。マレー半島のリアウ,ジョホール,スランゴールなどの諸王朝には,ブギス族の血が濃厚に混じっている。港々には必ずブギス族がいるといわれ,マレー半島,スマトラでは農村部にもコロニーをつくっている。
執筆者:前田 成文
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報