女装(読み)ジョソウ

デジタル大辞泉 「女装」の意味・読み・例文・類語

じょ‐そう〔ヂヨサウ〕【女装】

[名](スル)男が女の姿をすること。また、その装い。「女装して仮装大会に参加する」

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精選版 日本国語大辞典 「女装」の意味・読み・例文・類語

じょ‐そうヂョサウ【女装】

  1. 〘 名詞 〙 男が女のよそおいをすること。女のいでたち。
    1. [初出の実例]「乃使女装而往、自入乞一レ命」(出典日本外史(1827)二一)
    2. 「女装が出来る位だから、綺麗な人に違ひないね」(出典:学生時代(1918)〈久米正雄〉文学会)
    3. [その他の文献]〔瀛涯勝覧〕

にょ‐そう‥サウ【女装】

  1. 〘 名詞 〙じょそう(女装)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「女装」の意味・わかりやすい解説

女装
じょそう

女性の装いのことであるが、普通は男性が女性の装いをする場合をさす。性的倒錯からの女性化願望の女装、芸能演劇において男性が女役を演ずるための女装、民俗的信仰による女装、祭礼時の女装、変装仮装の女装など、動機はさまざまである。このなかでもっとも広く知られているのは芸能演劇の場合で、西洋演劇では古代ギリシア劇で女役を男性が演じたが、これは宗教的禁忌によるものであった。この伝統は後世まで続き、シェークスピア劇にも男性による女役がみられるし、イタリア・オペラでも変声期前に去勢した男性歌手(カストラート)が女役で歌ったりしていた。また中国の宮廷演劇でも宦官(かんがん)が女役を演じたが、これはイタリア・オペラと同様、去勢によって男性的特徴が退化して体つきも中性化し、音声も動作も著しく女性的になるからであった。日本にも、能に女役専門の役者がいた時代があるし、女舞を得意とする男性舞踊家もいる。また、歌舞伎(かぶき)では女役を演ずる男性の役者を女形(おやま)(もともとは操り人形のの人のこと)あるいは女方(おんながた)とよび、17世紀以降多くの名優が輩出している。この女形の伝統は日本の現代劇にも影響を与え、欧米劇の女役を男性俳優が演ずる場合もしばしばある。

 さて、昔から芸能人がひいき客などの宴席に招かれることは多いが、女形役者には女装で出席する者もいて、日本の江戸時代の若衆(わかしゅ)歌舞伎、野郎歌舞伎ばかりでなく、売色もする例は世界的な傾向であった。女装を売り物にする男性は芸能演劇以外にも多く、女装した男性ホストによるサービスを専門とするゲイ・バーは日本の大都市にも少なからずある。欧米にも、乳房を人工的に大きくした女装の踊り手(通称ブルーボーイ)によるセミ・ヌードのショーを見せるナイトクラブがあり、なかでもパリの「マダム・アルチュール」は有名である。性的倒錯者の女装ではフランス国王アンリ3世がよく知られており、裁縫刺しゅうを好み、舞踏会では女装した。また18世紀末の外交官エオン・ド・ボーモンは日常でも女装していたので、こうした趣好にエオニズムeonismという名さえ生まれた。こうした例では日本にも「オカマ」とよばれる人々が少なくないし、アメリカのニューヨークやサンフランシスコではとくに目だつ。

 民俗では、虚弱児は女装させるとそれが魔除(まよ)けになって無事息災に成育するとか、あるいは神隠しの迷信などから子供を女装させて育てる風習が、日本にも西洋にもあった。このようにして育てられたり、または女きょうだいのなかで育てられた男児が環境の影響によって女性的になり、成長してからも女装や女性的生活を好むようになる場合がしばしばみられた。また江戸時代の伊勢(いせ)参りの祭りではしばしば男性が女装したし、近江八幡(おうみはちまん)の左義長(さぎちょう)や京都鞍馬(くらま)の火祭などでも若衆が女性の長襦袢(ながじゅばん)を着たりする。山にこもる山の神は女性神なので、それにあやかる信仰的風習からである。

 このほか、カムフラージュのための女装も多く、日本武尊(やまとたけるのみこと)が女装して熊襲(くまそ)を討ったり、曽我(そが)兄弟が女装して敵(かたき)の陣屋に忍び込んだりしたことは、よく知られている。少年や若い男は女装してよく似合うことがある。したがって、美少年に女装させて愛好する稚児(ちご)趣味は古今東西に多い。最近では、大学祭などで男子学生が化粧し女装する催しもある。ただしこれは、女性に変身しておもしろがる遊びで、性的倒錯ではない。

[深作光貞]

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改訂新版 世界大百科事典 「女装」の意味・わかりやすい解説

女装 (じょそう)

男が女の装いをすること。演劇や芸能などで実際上の必要から女装する場合と,宗教的または象徴的な意味から女装する場合とがある。女装は日常的な秩序とは異なったものを表象し,神や常人の及ばぬ霊力をもつ者あるいはハレの時間や空間と結びつく。古く日本武(やまとたける)尊が熊襲(くまそ)征伐の際に女装したり,素戔嗚(すさのお)尊が八岐大蛇(やまたのおろち)退治で櫛をさして女装の形をとったことは有名であるが,これは単に敵をあざむくためというだけでなく,これで大きな霊力を帯びることができると考えられたのである。この世と霊界との媒介者であるシャーマンがしばしば女装する例は諸民族にみられ,奄美大島には実際に女装したシャーマンが現存する。日常の秩序が逆転する祭礼,盆踊のほか,少年から青年になる成年式や〈ええじゃないか〉のような時代の転換期の狂躁舞踊,さらに年が交替する小正月の来訪神のなかにも女装がみられる。また身体の弱い子どもがじょうぶに育つように女装させて魔よけとする所もある。なお,演劇の世界では女装した役者がしばしば登場するが,歌舞伎の女形(おんながた)はその典型といえよう。
変装 →両性具有
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世界大百科事典(旧版)内の女装の言及

【同性愛】より

…北米インディアンのいくつかの社会では,一部の男子が夢の予兆や手芸道具への好みなどにより幼いころから女性の役割を担うように育てられる。彼らは女装して女性の仕事をするようになり,他の男の妻たちの一人となるのである。しかし,そのように幼少期から定められ認められた性役割転換者以外の男の〈自発的な同性愛〉行為は,軽蔑という制裁を受ける。…

【変装】より

…国文学者松田修の《日本近世文学の成立――異端の系譜》(1963)は,〈かぶき〉精神の体現者としての信長,秀吉らを論じて一つの時代をその生成の相においてとらえ,この変装というテーマを考える上できわめて示唆に富む一書であるが,その論述の初めに述べられる〈異装は,人間という“わく”からの逸脱の,パスポートではないか〉という言葉は,まさに正(せいこく)を射たものとして記憶される。仮装道化[道化の外貌]
[女装・男装]
 さて,前述のように種々の弁別的特徴の束(たば)としてのわれわれの衣装は,原理的には,そのあらゆる点においてのさまざまな程度の変異がおこりうるわけであるが,しかし,実際の現象としてのそれらをある程度抽象化してとらえるならば,かなり明確な傾向,すなわち,変異を被る弁別的特徴は〈聖/俗〉〈男/女〉〈貴/賤〉〈老/若〉等々のような二項対立を形成し,変装はそれらの象徴的逆転の形式としてあらわれるという傾向が見いだされる。そして中でも,男の女装,女の男装,すなわち〈異性装〉が,歴史的に見た場合にも,また地理的・文化的に見た場合にも,最も普遍的に見いだされる変装の例であるといえる。…

※「女装」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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