日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブルガリア語」の意味・わかりやすい解説
ブルガリア語
ぶるがりあご
Bulgarian
ブルガリア共和国の言語。スラブ語派の南スラブ語群に属する。言語人口は約800万。文章語は1000年を超える長い伝統をもち、その最古層は、10~11世紀にブルガリアにおいて写本が作成された古代教会スラブ語と一致する。12世紀の文献にはすでにブルガリア語の言語体系における重大な変化(分析的言語への傾向)が反映されており、12~16世紀の中世ブルガリア文語は古代教会スラブ語と区別される。17~18世紀には古い文語の伝統を離脱し、生きた民衆語やトルコ語法を取り入れた新しい文章語が形成された。近代的な文章語の規範は19世紀の初頭に探求され、ブルガリア北東方言を基盤にしてロシア文語を手本とした現代ブルガリア標準文語は19世紀後半にその基礎が確立された。主要な言語的特徴は(1)名詞・形容詞の格変化形が消失し、格の関係が前置詞で表現されること、(2)後置冠詞によって名詞が限定されること(книга та「本」、език ът「言語」)、(3)動詞不定形の消失、(4)古い過去時制の保持――アオリスト(четох「私は読んだ」)、未完了(четах「私は読んでいた」)、完了(чел съм「私は読んでしまった」)、(5)スラブ祖語の*tj、*djがщ、ждとなること、(6)スラブ祖語の鼻母音*がъとなること、などである。
[栗原成郎]