プラズマ振動 (プラズマしんどう)
plasma oscillation
プラズマ中において,電気的中性の条件が局所的に破られたとき,これを回復しようとして生ずる振動運動。広義のプラズマには多くの種類があるが,プラズマ振動はそれらに共通の現象である。たいていのプラズマは電子と正イオンとからなるので,この場合について説明する。正イオンは電子に比べてずっと重く,プラズマ振動に際してもその動きを無視でき,ただ一様かつ静止した正の電荷分布を形成する。通常の中性プラズマでは,電子の負電荷がちょうどこれを打ち消している。これに対して,電子の密度が例えば図のaのように空間的に波立ったりするとプラズマ振動が発生する。この場合,電子密度の変動に応じて,図に示されているような空間電荷が生ずる。その結果矢印のような電場が生じ,電子はこれと逆向きの力を受け加速されて動き出す。このため電子密度の波はしだいにならされていく(図のb)。一方,電子は加速され続け,図のcの状態で最大速度に達する。状態aでの電気的位置エネルギーが運動エネルギーに変化したわけである。電子の運動はその運動エネルギーがすべて電気的位置エネルギーに変わる図のdの状態で停止し,この後,逆の経過をたどって(d→a)aに戻る。このような集団的振動運動がプラズマ振動である。その振動数νP(プラズマ振動数)は,波長にはほぼ無関係で,(CGS単位)となる。ここでN,e,mはそれぞれ単位体積当りの電子数,電子の電荷および質量である。νPはプラズマ中での電磁波の伝搬にとって重要な振動数で,これ以下の振動数の電磁波はプラズマ中を伝搬できず,入射しても全反射される。例えば大気上層の電離層の場合,Nは107cm⁻3程度で15m以上の長波長の電磁波は反射される。金属中の伝導電子も一種のプラズマであるが(固体プラズマ),Nが非常に大きいため,νPも大きく紫外線の振動数領域になる。このようにνPが大きい場合,量子効果が重要となる。すなわちプラズマ振動のエネルギーは連続的でなく,hνP(hはプランク定数)ごとの塊に量子化される。この塊を一種の粒子のように考え,プラズモンplasmonと呼ぶ。高速電子線が金属膜を通過する際,プラズモンの発生が観測される。
執筆者:黒沢 達美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
法則の辞典
「プラズマ振動」の解説
プラズマ振動【plasma vibration】
プラズマの中では電子が集団として振動可能となる.一様に分布した正電荷の媒質中で,電子密度の揺らぎが起こると,電気的中性が破れて電場が生じるが,これを防ごうとして復元力が働き,電子ガス中に密度の変動が起きる.波は電子の熱運動によって伝えられる.この速度 V と周波数 ω には
の関係があるが,ωp はプラズマ角振動数と呼ばれる量で,波長には無関係に
となる.ω<ωp の場合には V は虚数となり,プラズマに進入できなくなる.この限界となる周波数はプラズマ振動数と呼ばれるが
となる.me は電子の質量,T はプラズマの温度,e は電子の電荷,ne は1cm3 中の電子の数である.
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プラズマ振動
プラズマしんどう
plasma oscillation
プラズマを構成している荷電粒子の振動。 1928年に I.ラングミュアによって発見された。プラズマは電子と正イオンとで構成されており,それぞれの密度が均一のときは空間電荷を生じないが,もしなんらかの原因によって不均一なところができると,正または負の空間電荷を生じ,電場が誘起される。電子とイオンはこの電場から力を受けて,密度の不均一をなくすように運動を始めるが,慣性のために行過ぎ,再び密度の不均一を生じて,これを繰返す。電子の振動を電子プラズマ振動,イオンの振動をイオンプラズマ振動という。 1cm3あたりの電子数を ne で表わすと,電子プラズマ振動数 fpe は ヘルツである。
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世界大百科事典(旧版)内のプラズマ振動の言及
【固体プラズマ】より
…このためその運動状態は非常に複雑であり,これを取り扱ったボーム=パインズの理論などが知られているが完全なものとはいえない。静電相互作用に起因する集団運動としては[プラズマ振動]が重要である。これはある程度大きなスケールで中性条件が破られたとき,これを回復しようとして起こる振動であり,その振動数νp(プラズマ振動数)は,例えば金属や気体の場合,で与えられる(CGS単位)。…
【太陽電波】より
…フレアではエネルギーの高い電子が作られるが,これらの電子が磁場をもつプラズマ中を運動することによって放射する強い電波がバーストとして観測される。高エネルギー電子が黒点上層の磁力線のまわりを旋回するときにだすシンクロトロン放射は,センチメートル波帯バーストの有力な放射機構と考えられており,またコロナの中で高速電子流が作るプラズマ振動は,メートル波帯で観測される種々の型のバーストの放射機構と考えられている。このように一部のエネルギーの高い電子によって放射される電波を非熱的放射と呼んでいる。…
【プラズマ】より
…この効果を応用した核融合プラズマ閉込め装置がミラー装置である。
[プラズマ振動とプラズマ周波数]
プラズマ内の正・負両電荷の集団が平衡位置より互いにわずかの距離だけ分離したとする。このときその表面には,正,負の分極電荷が生ずるため,内部には電界が生じ,両電荷の集団は元の平衡位置に戻ろうとする。…
※「プラズマ振動」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」