日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィチーノ」の意味・わかりやすい解説
フィチーノ
ふぃちーの
Marsilio Ficino
(1433―1499)
イタリア・ルネサンス期の哲学者。フィレンツェの近くに生まれる。父親は医学を学ぶことを希望したが、プラトン研究に熱意をもつコジモ・デ・メディチに見込まれる。ギリシア語を学んだあと、1462年にプラトンの「対話篇(へん)」のイタリア語訳に着手して、1477年に完成、その注釈のかたわら、プロティノスの『エンネアデス』の翻訳も1486年に終えている。プラトン・アカデメイアの中心人物として、「第二のプラトン」とまでよばれている。
当時のスコラ学者、アベロエス主義者などがアリストテレスの自然学をめぐる論争に終始しているのに対し、プラトン的伝統に従って真の宗教性を追究した。ヘルメス・トリスメギストスからプラトンに至り、さらに新プラトン主義を経て、教父や中世の思想家へと通じる一つの神学的伝統の流れのなかに、神の啓示に基づいたピア・フィロソフィア(敬虔(けいけん)の哲学)があるとする一方、宗教は哲学的権威によって支えられたドクタ・ピエタス(学識ある信仰)でなければならないという要請から、プラトン的哲学の基礎のうえに、キリスト教神学を再建しようとするのが、主著ともいうべき『魂の不死に関するプラトン神学』(1469~1474執筆、1482刊)や『キリスト教について』(1474)の内容となっている。神、宇宙、人間の霊魂などに関して、とくに新プラトン主義とキリスト教を融合させた理論を展開している。
[大谷啓治 2015年1月20日]