ヘイエルダール(読み)へいえるだーる(英語表記)Thor Heyerdahl

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘイエルダール」の意味・わかりやすい解説

ヘイエルダール
へいえるだーる
Thor Heyerdahl
(1914―2002)

ノルウェーの人類学者、考古学者、探検家。文化伝播(でんぱ)における風や潮流海洋学的要因を重視し、ポリネシア文化源流が南アメリカのプレ・インカ期の文明にあること、アメリカ大陸の古代文明が古代オリエントの文明の影響の下に成立したことなどを唱えた。彼は自説を証明するのに、コン・ティキ号(1947)、ラーⅠ、Ⅱ号(1969、1970)など、古代の船を復原して漂流実験を行い、ガラパゴス諸島の探検(1953)やイースター島の考古学調査(1955~1956)も行った。1977~1978年には、古代メソポタミアのシュメール人の船を復原し、アフリカ紅海沿岸のジブチまでの航海を行っているが、彼の伝播説は学界定説となっていない。

[田村克己 2018年12月13日]

『T・ヘイエルダール著、永井淳訳『葦舟ラー号航海記』(1971・草思社)』『トール・ヘイエルダール著、国分直一・木村伸義訳『海洋の人類誌』(1990・法政大学出版局)』『T・ヘイエルダール著、山田晃訳『ファツ・ヒバ――楽園を求めて』上・下(社会思想社・現代教養文庫)』『トール・ヘイエルダール著、山田晃訳『アク・アク――孤島イースター島の秘密』(社会思想社・現代教養文庫)』『T・ヘイエルダール著、水口志計夫訳『コン・ティキ号探検記』(ちくま文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘイエルダール」の意味・わかりやすい解説

ヘイエルダール
Heyerdahl, Thor

[生]1914.10.6. ラルビク
[没]2002.4.18. 北イタリア
ノルウェーの人類学者,海洋探検家。ラルビク大学卒業 (1933) 後,オスロ大学でポリネシアなどについて研究し,哲学博士 (61) となる。ポリネシア人の起源について,南アメリカから移住したものという仮説を立て,古代インカの技法でバルサ材製の筏『コン・ティキ号』を造り,1947年ペルーのリマからポリネシアのラロイア環礁まで 6400kmの漂流に成功。さらにエジプトと南アメリカの人類移動の可能性を提唱し,古代エジプトの技法でパピルス製の『ラー号』 (エジプトの太陽神の意) を造り漂流を計画し,70年7月『ラー2世号』でモロッコのサフィ港からバルバドスのブリッジタウン港まで 57日間の漂流に成功。 77年には同様に,イラクからチグリス川を下りアラビア海を経て紅海にいたる漂流に成功,古代シュメール文化が西アジアやアラビア半島へと広まった可能性を示した。いずれも自説を実証した形となったが,学界では反論も多い。著書に『コン・ティキ号漂流記』 Kon-Tiki (50) ,"The Ra Expedition" (71) ,"The Tigris Expedition" (79) がある。

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