ヘラヤガラ(その他表記)Aulostomus chinensis

改訂新版 世界大百科事典 「ヘラヤガラ」の意味・わかりやすい解説

ヘラヤガラ (篦矢柄)
Aulostomus chinensis

ヨウジウオ目ヘラヤガラ科の海産魚。近縁のヤガラに似た体型で細長く,かつ吻端(ふんたん)から尾端まで側扁し,竹べらを連想させるためこの名が与えられた。また,吻が管状で著しく長く,その先端にある口が斜め上方に開くところから,英名をtrumpet fishという。背びれとしりびれがほぼ同形で後方に対置し,背びれの前方に遊離した棘(きよく)が8~12本並ぶことも特徴である。胸びれは小さく,腹びれはいっそう小さい。体色はきわめて変化に富みカムフラージュに役だっている。死ぬと縞模様はなくなり,尾びれと腹びれに暗色点が残る。全長90cm。和歌山県以南,インド洋からハワイにかけて広く分布する。ひれだけを使って滑るように泳ぎ,コバンザメのように大型魚に寄り添うことがある。また,岩礁の陰に身を潜めたり,海藻の間にまぎれ込んだりしており,小魚などが口の斜め上方にくると,すばやく突進して一気にのみ込んでしまう。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘラヤガラ」の意味・わかりやすい解説

ヘラヤガラ
へらやがら / 篦簳魚
trumpet fish
[学] Aulostomus chinensis

硬骨魚綱トゲウオ目ヘラヤガラ科に属する海水魚。相模(さがみ)湾以南、中部太平洋からアフリカ東岸、東部太平洋の暖海に広く分布し、水深30メートル以浅のサンゴ礁岩場に生息する。体は細長くて側扁(そくへん)し、吻(ふん)は管状に長く伸びる。下顎(かがく)の先端に1本の短いひげがある。背びれの棘(とげ)は11本で、いずれも独立している。体色の変異が著しく、淡褐色から鮮黄色までみられるが、一般に尾びれや腹びれに円形の黒点がある。体長1メートルほどになる。肉食性で小魚やエビ・カニ類などを吸い込むようにして食べる。海藻やサンゴなどの腔腸(こうちょう)動物の群体の間で倒立して、擬態をする。大形の魚に寄り添って泳いだり、頭を垂直方向に下げて大形魚の体に寄りかかる奇習がある。皮膚に渋みがあり、食用にしない。

[落合 明・尼岡邦夫]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ヘラヤガラ」の意味・わかりやすい解説

ヘラヤガラ
Aulostomus chinensis; Chinese trumpetfish

トゲウオ目ヘラヤガラ科の海水魚。全長 80cmに達する。体は細長くて側扁する。吻は著しく長く,口は吻端に開く。背鰭は 8~13本のとげと尻鰭に相対する軟条部とからなる。体色は通常暗赤褐色,ときに黄色。サンゴ礁にすむが,行動が特異で,頭を下にして海藻の間や岩陰で静止していたり,ほかの魚に寄り添って泳いだりする。相模湾以南,インド・太平洋域に広く分布する。

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