日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベイルドン石」の意味・わかりやすい解説
ベイルドン石
べいるどんせき
bayldonite
銅(Cu)および鉛(Pb)の含水ヒ酸塩鉱物。1921年の発見当初は幅広いCu-Pb相互置換が行われる例の一つとしてあげられていたが、これが誤りであることが判明するまで50年以上かかった。深熱水鉱脈型あるいは接触交代型(スカルン型)銅・亜鉛・鉛鉱床の酸化帯に産し、複雑な銅・鉛の二次鉱物の組合せを形成し、共存鉱物の内容が非常に複雑になることで有名である。日本では大分県南海部(みなみあまべ)郡宇目(うめ)町(現、佐伯(さいき)市)木浦(きうら)鉱山(閉山)の酸化帯から確認されている。
自形はb軸方向に伸びた短柱状をなすが、非常にまれである。多く微細な乳房状の集合をなし、内部は繊維状結晶の放射状組織を呈する。共存鉱物はくじゃく石、藍銅(らんどう)鉱、ミメット鉱、オリーブ銅鉱、α(アルファ)‐ダフト鉱α-Duftite(化学式CuPb[OH|AsO4])、アダム鉱、ツメブ鉱tsumebite(Pb2Cu[OH|SO4|PO4])、キー鉱keyite(Cu3(Zn,Cu)4Cd2[AsO4]6・2H2O)、シュルテン石schulténite(Pb[AsO3OH])、フィリプスボーン石phillipsbornite(PbAl3H[(OH)3|AsO4]2)のようにヒ酸塩主体の場合と、ビューダン石、硫酸鉛鉱、白鉛鉱、重晶石などヒ酸塩に乏しい場合とがある。同定は非常に鮮やかな鶸(ひわ)緑(siskin-green)から林檎(りんご)様緑など目だつ緑色による。少しでも透明な部分があればガラス光沢より樹脂光沢の様相をもつ。結晶すると色が濃くなる。英名はイギリスの物理学者で、原記載標本の採集者ジョン・ベイルドンJohn Bayldonにちなむ。
[加藤 昭 2018年7月20日]