べからず(読み)ベカラズ

デジタル大辞泉 「べからず」の意味・読み・例文・類語

べから◦ず

[連語]推量助動詞べし」の未然形+打消しの助動詞「」》
文末に用いて)禁止を表す。…してはいけない。…するな。「展示品に手を触れる―◦ず」
「乙若殿も泣く―◦ず。我も泣くまじきなり」〈平治・下〉
(「ざるべからず」の形で)指示命令を強調する意を表す。…せよ。「人の危難を見ては救助せざる―◦ず」
不可能を表す。…できない。「許す―◦ざる行為
「羽なければ、空をも飛ぶ―◦ず」〈方丈記
当然の意の打消しを表す。…するはずがない。
「珍しからぬ事のままに心得たらん、よろづ違ふ―◦ず」〈徒然・七三〉
[補説]「べからず」は、平安時代では多く漢文訓読に使われた。現代では、やや改まった場合や文章語表現に用いられ、3は「べからざる」の形をとることが多い。動詞・助動詞に接続するとき、文語活用の終止形に付くこともある。

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精選版 日本国語大辞典 「べからず」の意味・読み・例文・類語

べから‐・ず

(推量の助動詞「べし」の補助活用未然形「べから」に打消の助動詞「ず」の付いたもの)
① 適当でないとして禁止する意を表わす。…してはならない。…すべきではない。
※地蔵十輪経元慶七年点(883)四「軽慢し讁罰を加ふベカラズ」
源氏(1001‐14頃)手習「人の命久しかるまじきものなれど、残りの命一二日をも惜しまずはあるべからず」
意志をもたないこと、しない意志をもつことを表わす。
今昔(1120頃か)一〇「我、他の女に不可娶(とつぐべから)ず、汝、亦、他の男に不可近付(ちかづくべから)ず」
事態のおこらないことを、確信をもって予定することを表わす。
※栂尾明恵上人物語(室町頃か)「此七字を心にかけてたもたば敢て悪き事有へからす」
④ 不可能の意を表わす。…できない。…できるはずがない。…できそうもない。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)五「無量の劫を経て如来を讚したてまつるとも、世尊功徳を思議すべからず」
※枕(10C終)二七八「めでたしと見たてまつりつる御ありさまには、これはた、くらぶべからざりけり」
[語誌](1)平安時代には、主として漢文訓読に用いられ、和文での例は、ほとんど男性の手になる作品か男性の会話部分などに限られる。
(2)現代語では、文語的表現として、「立ち入るべからず」のように禁止の意に用い、また「云ふべからざる孤独を感じた」 〔永日小品(1909)〈夏目漱石〉印象〕のように「べからざる」の形で不可能の意に用いることがある。また、「ざるべからず」など二重否定の形で強い義務や命令の意を表わす。→ざるべからず

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