精選版 日本国語大辞典 「ず」の意味・読み・例文・類語

〘助動〙 (活用は「ず・ず・ず・ぬ・ね・○」。補助活用「ざら・ざり・(ざり)・ざる・ざれ・ざれ」。用言およびある種の助動詞未然形に付く。→語誌) 打消の助動詞。打消の意を表わす。…ない。
古事記(712)上・歌謡太刀が緒もいまだ解か受(ズ)て 襲(おすひ)をもいまだ解か泥(ネ)ば」
万葉(8C後)一五・三七七五「あらたまの年の緒長くあは射礼(ザレ)ど異しき心をあが思(も)はなくに」
源氏(1001‐14頃)桐壺「この御にほひには、ならび給ふべくもあらざりければ」
※新古今(1205)春上・五五「てりもせず曇りもはてぬ春の夜の朧月夜にしく物ぞなき〈大江千里〉」
[語誌](1)活用として普通に説かれるのは、「ぬ」の系列の活用と、「ず」および「ず」に「あり」が熟合した「ざり」の系列の活用とがあるということである。
(2)「ざり」系は、ラ変型の活用で、上代には例が少なく、形容詞の補助活用と同様に、「ず」の補助活用として中古以降多く用いられた。
(3)「ず」は、終止形のほか、連用修飾法、中止法、また、助詞「て」「は」助動詞「き」「けむ」「けり」等につづく用法があり、連用形、終止形の二形と認められる。成立に関して、「ぬ」の系列の連用形「に」と動詞「す」の結合した「にす」からの変化とみられる。
(4)「ぬ」の系列の活用は未然形としては、上代、いわゆるク語法の「なく」や東国方言の「なふ」の「な」をあてることができ、連用形の「に」は、上代に「しらに」「かてに」などの連用修飾法、また、「万葉‐三九〇二」に「梅の花み山としみにありともやかくのみ君は見れど飽か爾(ニ)せむ」の例があって、四段活用と認められる。ただし、終止形、命令形の確かな例は見あたらない。
(5)中世以後の口語では、「ざり」系では主として「ざった」が目立つほか、連体形の「ぬ」の終止法が一般化した。中世末期には関東では、「ない」が一般化し、関西系の「ぬ」と対立するようになった。関東でも、「ませぬ」の変化した「ません」は広く用いられており、その他慣用的な用法としては「ぬ」系も残っているが、明治以後、国定読本をはじめ、口語文の標準としては、「ない」に代わられたといってよい。連用形「ず」は、連用中止法として、主として書きことばに用いられている。また、助詞「に」「と」を伴って、「ずに」「ずと」となることも多い。→助動詞「ない」・「ずに

〘助動〙 (「むず(んず)」の撥音無表記。また、中世以後の「うず」の変化したもの) 意志や推量の意を表わす。
※史記抄(1477)一〇「王僚は可殺とはやすく殺さずと云ぞ」
※滑稽本・東海道中膝栗毛‐発端(1814)「すいた男に添せずとおもひきはめ、わざわざめしつれて参っておざるヤア」
[補注]「万葉」の東歌、「我をかづさ寐もかづさか受(ズ)とも」(三四三二)、「麻笥(をけ)にふすさに績(う)ま受(ズ)とも」(三四八四)、「風吹か受(ズ)かも」(三五七二)の「ず」を、この「ず」とし、上代東国方言に用いられていたとする説がある。

〘接頭〙 (「図」「頭」と表記されることが多いがあて字) とびぬけている、度外れているの意を添える。「図横柄」「図抜ける」「図外れ」など。

「重みす」→「おもんず」、「空にす」→「そらんず」などの「み」または「に」に融合したサ変動詞「す」。

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デジタル大辞泉 「ず」の意味・読み・例文・類語

ず[助動]

[助動][ざら|ざり|○|ざる|ざれ|ざれ]活用語の未然形に付き、断定的な否定判断を表す。ない。ぬ。→ざり
「あらたまの年の緒長く逢はざれしき心を我がくに」〈・三七七五〉
「おろかにそ我は思ひし乎布をふの浦の荒磯の巡り見れど飽かけり」〈・四〇四九〉
「風波やまば、なほ同じ所にあり」〈土佐
「誰もいまだ都なれほどにて、え見つけ」〈更級
[補説]「ず」の活用は「ず」の系列「(ず)・ず・ず・〇・〇・〇」と、「ぬ」の系列「(な)・(に)・〇・ぬ・ね・〇」とからなるが、さらにその不備を補うため、連用形「ず」に動詞「あり」の付いた「ずあり」の音変化形「ざり」系列「ざら・ざり・〇・ざる・ざれ・ざれ」が生じた。未然形「な」と連用形「に」は奈良時代に用いられたが、「ず」は、この「に」に動詞「す」が付いて成立したものという。「な」は、接尾語「く」の付いた「なく」の形で後世にも用いられた。また、中世以降、終止形は「ず」に代わり「ぬ」が用いられるようになり、未然形「ず」は室町時代以降「ずば」の形で用いられた。なお、現代では、連用形「ず」は中止法として主に書き言葉で用いられ、終止形は「べからず」の形で禁止の意を表すのに用いられる。

ず[五十音]

」の濁音。歯茎の有声破擦子音[dz]と母音[u]とから成る音節。[dzu]
[補説]清音「す」に対する濁音としては、本来、歯茎の有声摩擦子音[z]と母音[u]とから成る音節[zu]が相当するが、現代共通語では一般に[dzu]と発音する。しかし、[zu]とも発音し、両者は音韻としては区別されない。古くは[ʒu](あるいは[dʒu][dzu])であったかともいわれる。室町時代末には[zu]と発音され、近世江戸語以降[dzu]と発音された。

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