言語の類型論的分類の一つである,単語の構成という形態論的観点からの分類に基づくタイプの一つ。孤立語では単語は常に一定の語形であらわれ,文中でそれが果たす機能に応じて姿を変えることはない。すなわち,通常一つの単語は一つの形態素だけからなっていて,それに種々の文法的カテゴリー,文法的諸関係を標示するための接辞が付加されることはないのである。したがって,格,数,人称,時制などを示す標識はなく,語と語との間の文法的関係は,その相対的な配列順といった手段にたよって示されることになる。典型的な例としてはベトナム語や中国語が挙げられる。たとえば,中国語では〈愛〉はそれだけでは〈愛〉という名詞なのか,〈愛する〉という動詞なのかまったく区別されない。文中に置かれて,それを取り巻く前後の要素との関係からはじめて明らかになるのである。〈私は君を愛する〉という意味の中国語文〈我愛你〉では〈愛〉は〈愛する〉という動詞で,その行為の主体〈我〉とその対象〈你〉はおのおのそれを示す標識は何ももたず,その関係は語順によってのみ示されているのである。
この分類は19世紀のW.フンボルトらにさかのぼるもので,語構成を基準にすべての言語を孤立語,膠着語,屈折語の三つ,あるいはさらに抱合語を加えた四つのタイプに分けようというものである。言語の分類法として一般に広く流布するところとなったが,この分類の仕方はあくまでも語の構造という一面のみに着目したものであり,決して包括的なものではない。また,個々の言語についてみると,これらのタイプのうちの一つだけを純粋に示す言語はきわめてまれと思われ,通常はさまざまな程度にいくつかの(あるいはすべての)特徴を併せもっているのである。また同一の言語でも,歴史的変遷に伴ってタイプが変わる例はしばしばみられる。たとえば英語をとってみると,複数形の形成dog-sなどは膠着語的であるし,動詞takeの過去形がtookになるというように内部変化を伴う例は屈折語的である。また英語の名詞は古くは格変化がみられたが,現代では所有を表す-'sを除いては失われており,孤立語的性格を強めている。その結果,主語-目的語という文法的関係は原則として動詞に先行する要素が主語で,後に来る要素が目的語であるというように,語順に依存して示される度合が著しくなっている。こうしたことからもわかるように,そもそもさまざまに異なった姿を示す世界中の諸言語を,唯一の観点から少数のタイプに分類するのは無理であり,どこまでも一応の目安を示すものと理解すべきである。なお20世紀におけるさらに精密な分類の試みは,ドイツの言語学者フィンクFranz Nikolaus Finck(1867-1910)やアメリカのE.サピアにみられる。ちなみに,かつてこの3分類を,孤立語から膠着語へ進み,さらに最も進んだ段階が屈折語であるとする,発展段階の違いとしてとらえる考えが説かれたことがあるが,これはまったく根拠のないものである。
→言語類型論
執筆者:柘植 洋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
言語の構造類型の一つ。文中における単語間の文法的な関係が、語順や接続詞などによってしか表されず、いわゆる語形変化のまったくないとされる言語。普通、中国語がその典型的なものとされているが、それは種々の意味であまり正しくない。なぜかというと、その現代語(北京(ペキン)方言を基礎とする標準語)は、名詞句に対しては「学校里」(学校に)、「街道上」(通りで)のように後置助詞を発達させてしまったし、動詞句では「吃了」(食べた)、「看着」(見ている)のように、不定法以外の動詞は一定の時制や体(たい)を示す語尾なしにはあまり現れなくなっているからである。したがって、もしも孤立語ということがその定義どおりの意味でありうるとしたら、それは、こうした名詞後置詞や動詞語尾(接尾辞)をまだあまり発達させていなかった古代中国語にしか当てはまらないであろう。しかし、その古代中国語も、漢字という一見表意文字であるかのようにみえる書記法によって記録されているから、語形変化がまったくないかのように見受けられるが、それは外見だけであって、実際には各種の語形変化があったとみる人も多い。したがって、孤立語とは、人間の話す言語のなかの一方の極に想定されるタイプをいうものであって、現実のどの言語をさすものでもないと考えてよいと思われる。
[橋本萬太郎]
『泉井久之助著『言語の構造』(1967・紀伊國屋書店)』▽『Y・R・チャオ著、橋本萬太郎訳『言語学入門――言語と記号システム』(1980・岩波書店)』▽『B・カールグレン著、大原信一・辻井哲雄・相浦杲・西田龍雄訳『中国の言語――その特質と歴史について』(1958・江南書院)』
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加