孤立語(読み)コリツゴ

デジタル大辞泉 「孤立語」の意味・読み・例文・類語

こりつ‐ご【孤立語】

言語の類型的分類の一。単語は実質的意味だけをもち、それらが孤立的に連続して文を構成し、文法的機能は主として語順によって果たされる言語。中国語・チベット語・タイ語など。→屈折語膠着語こうちゃくご抱合語

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精選版 日本国語大辞典 「孤立語」の意味・読み・例文・類語

こりつ‐ご【孤立語】

  1. 〘 名詞 〙 屈折語、膠着(こうちゃく)語、抱合語と並び、言語の類型的分類の一つ。単語は実質的意味を示すだけで、語尾変化や接辞がなく、文法的機能は主として語順によって表わされる言語。中国語・チベット語・タイ語の類。〔日本語学一班(1890)〕

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改訂新版 世界大百科事典 「孤立語」の意味・わかりやすい解説

孤立語 (こりつご)

言語の類型論的分類の一つである,単語の構成という形態論観点からの分類に基づくタイプの一つ。孤立語では単語は常に一定の語形であらわれ,文中でそれが果たす機能に応じて姿を変えることはない。すなわち,通常一つの単語は一つの形態素だけからなっていて,それに種々の文法的カテゴリー,文法的諸関係を標示するための接辞が付加されることはないのである。したがって,格,数,人称,時制などを示す標識はなく,語と語との間の文法的関係は,その相対的な配列順といった手段にたよって示されることになる。典型的な例としてはベトナム語中国語が挙げられる。たとえば,中国語では〈愛〉はそれだけでは〈愛〉という名詞なのか,〈愛する〉という動詞なのかまったく区別されない。文中に置かれて,それを取り巻く前後の要素との関係からはじめて明らかになるのである。〈私は君を愛する〉という意味の中国語文〈我愛你〉では〈愛〉は〈愛する〉という動詞で,その行為の主体〈我〉とその対象〈你〉はおのおのそれを示す標識は何ももたず,その関係は語順によってのみ示されているのである。

この分類は19世紀のW.フンボルトらにさかのぼるもので,語構成を基準にすべての言語を孤立語,膠着語屈折語の三つ,あるいはさらに抱合語を加えた四つのタイプに分けようというものである。言語の分類法として一般に広く流布するところとなったが,この分類の仕方はあくまでも語の構造という一面のみに着目したものであり,決して包括的なものではない。また,個々の言語についてみると,これらのタイプのうちの一つだけを純粋に示す言語はきわめてまれと思われ,通常はさまざまな程度にいくつかの(あるいはすべての)特徴を併せもっているのである。また同一の言語でも,歴史的変遷に伴ってタイプが変わる例はしばしばみられる。たとえば英語をとってみると,複数形の形成dog-sなどは膠着語的であるし,動詞takeの過去形がtookになるというように内部変化を伴う例は屈折語的である。また英語の名詞は古くは格変化がみられたが,現代では所有を表す-'sを除いては失われており,孤立語的性格を強めている。その結果,主語-目的語という文法的関係は原則として動詞に先行する要素が主語で,後に来る要素が目的語であるというように,語順に依存して示される度合が著しくなっている。こうしたことからもわかるように,そもそもさまざまに異なった姿を示す世界中の諸言語を,唯一の観点から少数のタイプに分類するのは無理であり,どこまでも一応の目安を示すものと理解すべきである。なお20世紀におけるさらに精密な分類の試みは,ドイツの言語学者フィンクFranz Nikolaus Finck(1867-1910)やアメリカのE.サピアにみられる。ちなみに,かつてこの3分類を,孤立語から膠着語へ進み,さらに最も進んだ段階が屈折語であるとする,発展段階の違いとしてとらえる考えが説かれたことがあるが,これはまったく根拠のないものである。
言語類型論
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「孤立語」の意味・わかりやすい解説

孤立語
こりつご

言語の構造類型の一つ。文中における単語間の文法的な関係が、語順や接続詞などによってしか表されず、いわゆる語形変化のまったくないとされる言語。普通、中国語がその典型的なものとされているが、それは種々の意味であまり正しくない。なぜかというと、その現代語(北京(ペキン)方言を基礎とする標準語)は、名詞句に対しては「学校」(学校)、「街道」(通り)のように後置助詞を発達させてしまったし、動詞句では「吃」(食べ)、「看」(見ている)のように、不定法以外の動詞は一定の時制や体(たい)を示す語尾なしにはあまり現れなくなっているからである。したがって、もしも孤立語ということがその定義どおりの意味でありうるとしたら、それは、こうした名詞後置詞や動詞語尾(接尾辞)をまだあまり発達させていなかった古代中国語にしか当てはまらないであろう。しかし、その古代中国語も、漢字という一見表意文字であるかのようにみえる書記法によって記録されているから、語形変化がまったくないかのように見受けられるが、それは外見だけであって、実際には各種の語形変化があったとみる人も多い。したがって、孤立語とは、人間の話す言語のなかの一方の極に想定されるタイプをいうものであって、現実のどの言語をさすものでもないと考えてよいと思われる。

[橋本萬太郎]

『泉井久之助著『言語の構造』(1967・紀伊國屋書店)』『Y・R・チャオ著、橋本萬太郎訳『言語学入門――言語と記号システム』(1980・岩波書店)』『B・カールグレン著、大原信一・辻井哲雄・相浦杲・西田龍雄訳『中国の言語――その特質と歴史について』(1958・江南書院)』

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百科事典マイペディア 「孤立語」の意味・わかりやすい解説

孤立語【こりつご】

屈折語,膠着(こうちゃく)語と並んで言語の形態論的分類の一つ。単語には語形変化がなく,文中の語順や前置詞などの助詞によって文法的機能を表す言語。この分類が19世紀に始められたときは,品詞の区別をもたない中国語が念頭におかれていた。近代英語も格変化などを失って孤立語的傾向をかなり示している。
→関連項目屈折語言語類型論ベトナム語

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「孤立語」の意味・わかりやすい解説

孤立語
こりつご
isolating language

単語語形替変を行わず,文法的関係がおもに語順により表わされる言語。中国語が代表。孤立語にかなり共通にみられる特徴としては,前置詞が多い,代名詞を除いて性・数の範疇がない,単語が単音節で1形態素から成る傾向が強い,などがあげられる。しかし,中国語にも多音節単語がふえつつあるなど,孤立語とされる言語のすべてが前述の特徴をもつとはかぎらず,膠着語的特徴や屈折語的特徴をあわせもつことがあるし,逆に非孤立語のうちにも孤立語的特徴もみられる。

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