英語ではtone。声調とは,本来,音節全体にかかる高低の対立,すなわち音節音調であるが,中国では伝統的に -p,-t,-kなどのような内破音に終わる音節構成をも〈入声(につしよう)〉として,声調の一タイプと考える。このさい高低の対立は相対的なものであって,低い方より順に1,2,3,4,5で示せば,〈普通話〉(現代中国共通語で,北京語の音韻体系にもとづく)の四声は,第1声(陰平声)が55(5の高さにはじまり,5の高さに終わる)の高平調,第2声(陽平声)が35(3の高さにはじまり,5の高さに終わる)の高昇調,第3声(上声)が214(2の高さから1の高さに下降してから,4の高さに上昇する)の降昇調,第4声(去声)が51(5の高さから1の高さに急降下する)の高降調である。〈普通話〉のローマ字つづり,すなわち〈拼音pīn yīn〉では,これらを記号化して順に,,,であらわし,主母音の上に記す。いまmaという音節で示せば,mā〈媽〉,má〈麻〉,mǎ〈馬〉,mà〈〉のようになる。単音節を基調とする中国語にとっては,有力な弁別機能をになうものである。また上の表示は一般的に[ma],[ma],[ma],[ma],あるいは,[ma55],[ma35],[ma214],[ma51]と示すことも可能である。以上は単独に用いられたばあいの固有の声調であって,同一呼気段落内の前後の環境によって声調変化の起こることがある。なお強勢段落中の,主として末尾の音節が無強勢になると,その固有の声調が発現されない〈軽声qīng shēng〉となる。軽声を第5の特殊な声調と考える者もあるが,厳密にいえば,軽声は無強勢音節であって,高低の対立とは別ものである。ところで中古音や普通話の声調の種類,すなわち調類はたまたま四つであったが,常にそうであるとは限らず,言語によって当然異なるものである。中国語の方言では,3種類を最少とし,最多の広西博白方言の10種類にいたるまで,変化に富んでいる。このような多様さをみせるのは,主として,声母の清濁の別により,陰調,陽調に分かれるからである。具体例で示せば(調値は省略),天水方言(甘粛)は平声・上声・去声の3声,南京方言は陰平声・陽平声・上声・去声・入声の5声,梅県(客家(ハツカ))方言は陰平声・陽平声・上声・去声・陰入声・陽入声の6声,福州(福建)方言は陰平声・陽平声・上声・陰去声・陽去声・陰入声・陽入声の7声,紹興方言は陰平声・陽平声・陰上声・陽上声・陰去声・陽去声・陰入声・陽入声の8声,広州(広東)方言は陰平声・陽平声・陰上声・陽上声・陰去声・陽去声・上陰入声・下陰入声・陽入声の9声,博白方言は陰平声・陽平声・陰上声・陽上声・陰去声・陽去声・上陰入声・下陰入声・上陽入声・下陽入声の10声である。安然《悉曇蔵》に引く〈表〉の伝えた漢字音(唐代)の声調にすでに陰,陽の分離がみえることを有坂秀世が指摘している。声調の機能をもつ言語は,中国語のほか,チベット語,タイ語,ビルマ語,ベトナム語など,アジアの言語に多い。
執筆者:慶谷 寿信
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歌論用語。調べ。短歌の韻律形式やことばの響き、情緒などを含む情意の流れを総合的にとらえたもの。単に音楽的なものでなく、形式と内容との関連から生まれる調子、音調をいう。歌の調べは情意のおのずからなる表出であり、これをもっとも重視したのは香川景樹(かがわかげき)で、調べは自然の「誠(まこと)」の現れであるといい、和歌の本質をなすものとした。近代では伊藤左千夫(さちお)が「言語の声化」を唱え、感動の動きから出た声調を尊重、そこに個性の現れを認めた。斎藤茂吉(もきち)も歌調を「自己(アイゲン)の声」とし、「短歌声調論」(1932)でこれを詳細に論じている。調べはもと音楽用語から出ており、今日では声調の語を用いることが多い。
[本林勝夫]
…日本語では,橋[haʃi]と箸[ha̚ʃi]のように高さアクセントの位置の違いが語の意味を区別する。高さアクセントの変動が音節と結びつくとき声調toneとなる。タイ語には,高[mái]〈木〉,中[mai]〈マイル〉,低[mài]〈新しい〉と3段の高さがあり,さらに上昇[mǎi]〈蚕〉と下降[mâi]〈燃える〉の別がある。…
… 口承伝承の形式は,それを演じる人々が話している言語のしくみと,ときには密接な関係をもっている。アフリカの言語の多くは,すべての単語が高音,中音,低音などの一定の音調(トーン)に支配されている〈音調言語〉であり,それは中国語(北京語)のように音調(声調)によりただ単語の意味が異なるというのではなくて,たとえば動詞の現在形・過去形・未来形のような文法変化もが音調により示される〈文法的音調言語〉である。この性質は,口承伝承にも強く反映していて,なぞなぞでも日本に見られるような種類のほかにも,早口なぞなぞ,音調合せなぞなぞといったものが,とくに西アフリカには多く見いだせる。…
…また豊富な複合子音をもつ言語もある。チベット語アムド方言のように声調がない言語もあるが,シナ・タイ語系の言語は多種類の声調対立を示し,チベット・ビルマ系の言語もほとんどが声調言語である(ただ声調の数は少ない)。(2)シナ・タイ語派の語順は,主語―動詞―目的語(私―打つ―彼)であるが,チベット・ビルマ語派では,主語―目的語―動詞の順(私(が)―彼(を)―打つ)に並べられ,特定の格助詞が使われる。…
…ただし国は国語統一政策を着々と進めている。 音韻上は単音節を根幹とし,〈母音だけ〉〈母音+子音〉〈子音+母音〉および〈子音+母音+子音〉の型があり,これに声調が加わる。なお外来語の影響による複音節語も少なくない。…
…1950年代以降,中国のチベット解放に起因する政治・社会情勢の変化に対応し,中国,インド,ブータンにおいて,口語の発音に基づく正書法の一部修正,口語文法の導入,単語の新造により現代文語が成立しつつあるが,文語と口語との差異は,方言によりその程度は異なるとはいえ,かなり大きく,とくに,前出のいくつかの地名等も示すように,単語のつづり字と発音との差異は著しい。
[特徴]
9世紀から現代まで,口語の変遷に関係なく,ほとんど根本的な修正を受けずに伝承されてきたチベット文語のつづり字には,文字が作られた7世紀のチベット語の音韻構造を反映して,音節の頭に2~4個の,音節の末尾に2個の,子音群を表す子音の結合が書かれることがあるが,中央部方言,東南部方言,南部方言ではほとんど子音群が消え,そのかわりに声調が発達した。たとえば,中央部方言に属し,最も標準的な口語とみなされるラサ方言の音節構造は,CV(C=子音音素,V=母音音素),CVV(VVは同じ母音音素の連続),CVCの3種類,CVには高平[-],低昇り[’]の2型,CVV,CVCにはそのほかに高降り[`],低昇り降り[^]の2型が加わって4型の声調,2音節の単語では同様の4型の単語高さアクセントが認められる。…
…その音節は(C)(M)V(C/V)/Tと表示できる。Cは子音,Mは‐i‐,‐u‐,‐ü‐,以上三つの半母音のいずれか,Vは母音であり,Tはこうして作られる音節の全体について,その始点から終点に至る間,いちいちの時点における音の高さやその量等の指定である〈声調〉で,中国語は原則としてすべての音節が,その音節の担うべき機能に対応した声調をもつ〈声調言語〉でもある。(C)(M)V(C/V)/Tのうち括弧をつけたものは,その要素のない音節があり得ることを示すが,たとえそれらの要素を欠いても,それによってその音節がそれだけ短くなるのではなく,それらの要素のすべてを備えたものも,ただひとつVだけの構造のものも,相互に同じ音量と意識されるのが普通で,それがこの国の美文学に〈五言詩〉〈七言詩〉あるいは〈四六駢儷(しろくべんれい)体〉など,字数を基礎とする詩文の体をはじめさせた理由となっている。…
…たとえば,日本語や英語の表記法などは高低あるいは強弱のアクセントを記していない。声調toneが重要な役割をしているタイ語やベトナム語などの表記法ではその区別が書き表されているが,それでも文に加わるイントネーションや強調などのすべてが表記されることはない。 また,音声言語行動と文字言語行動とではその成立する場面に大きなちがいがある。…
※「声調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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