ベブレン(読み)べぶれん(英語表記)Thorstein Bunde Veblen

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ベブレン」の意味・わかりやすい解説

ベブレン(Thorstein Bunde Veblen)
べぶれん
Thorstein Bunde Veblen
(1857―1929)

アメリカ経済学者、社会学者。制度学派創始者と通常みなされている。ノルウェーの移住農民の子で、ジョンズ・ホプキンズ、エール大学などで学んだのち、シカゴスタンフォードミズーリコロンビア大学などで教えたが、その特異な思想と非社交性のために、教歴面では概して不遇だった。

 ドイツの新歴史学派やアメリカの哲学者J・デューイらの深い影響を受け、シカゴ大学在職時の『有閑階級の理論』The Theory of the Leisure Class(1899)や『企業の理論』The Theory of Business Enterprise(1904)で、当時の資本主義社会を構成している家族、企業、組合、国家などの社会制度を分析し、その臨床学的診断書を提示した。自然法思想や快楽主義的心理学に基づいている既存の経済学は静的な機械的分類学以上のなにものたることもできず、現実の人間が営む経済社会の質的・累積的変化発展を把握するためには、文化人類学、社会学、法学、哲学などのいわば隣接領域の諸分析手法をも採用したもっと多様な方法によらなければならないと説き、彼自身その創設(1918)に参加したニューヨークのニュー・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチを中心に、J・R・コモンズやW・C・ミッチェルらに深い影響を与えた。既存の抽象的経済理論への批判が激化した1970年代以降、ふたたびベブレンへの関心が高まっている。

[早坂 忠]

『小原敬士訳『企業の理論』(1965/新装版・2002・勁草書房)』『小原敬士訳『有閑階級の理論』(岩波文庫)』『中山大著『ヴェブレンの思想体系』(1974・ミネルヴァ書房)』『西部邁著『経済倫理学序説』第2部(1983・中央公論社)』


ベブレン(Oswald Veblen)
べぶれん
Oswald Veblen
(1880―1960)

アメリカの数学者。アイオワ州の生まれ。アイオワ、ハーバードの大学に学び、シカゴ大学で学位を取得(1903)。プリンストン大学教授を経てプリンストン高等研究所教授。初期のヤングJ. W. Young(1879―1932)との共著『射影幾何学Ⅰ・Ⅱ』(1909)もよく知られるが、1920年代に、プリンストン大学のアイゼンハルトL. P. Eisenhart(1876―1965)らと協力して、道の擬似幾何学、道の射影幾何学、リーマン空間の共形幾何学の研究と、これらの統一場理論への応用に貢献した。

[矢野健太郎]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ベブレン」の意味・わかりやすい解説

ベブレン
Veblen, Thorstein (Bunde)

[生]1857.7.30. ウィスコンシン,マニトウォク
[没]1929.8.3. カリフォルニア,メンロパーク近郊
アメリカの経済学者,社会学者。ノルウェー系移民の農家に生れ,エール,コーネル両大学で学ぶ。シカゴ,スタンフォード,ミズーリ各大学で教えたのち,1918年雑誌『ダイアル』 The Dialを編集。経済理論よりも経済制度の進化論的研究を手がけ,制度学派経済学の創始者となった。主著『有閑階級の理論』 The Theory of the Leisure Class: An Economic Study in the Evolution of Institutions (1899) において人間の行為の基盤にある制作本能と攻撃本能のうち労働を生み出す前者に対して,後者をもってレジャーの本質とし,所有権の成立から有閑階級が出現し,所有を求める欲求が富と権力の獲得につながることを問題とした。またレジャーについての独特の説明を行なって,のちにまで多くの影響を及ぼした。その他著書,『企業の理論』 The Theory of Business Enterprise (1904) ,『特権階級論』 The Vested Interests and the State of the Industrial Arts (19) ,『アメリカ資本主義批判』 Absentee Ownership and Business Enterprise in Recent Times: The Case of America (23) など。

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