すべての素粒子の場の存在の必然性と、それらの間の相互作用を統一的観点から導こうとする試みを統一場理論、あるいは統一理論という。統一場理論という名称は、狭い意味では、一般相対性理論が成功した直後に物理法則の幾何学化の路線上で電磁気力と重力を統一しようとした1920~1930年代の試みをさしている。しかし、ここでは1970年代の中ごろから再興した量子論とゲージ理論による相互作用の統一理論を含めておく。
1915年アインシュタインにより提唱された一般相対性理論は重力の幾何学理論であったが、1918年にH・ワイルが、1921年にはカルーツァTheodor Franz Eduard Kaluza(1885―1954)が電磁気学を重力と同様に幾何学の理論として記述し、一般相対論を拡張する試みを行った。これらは、リーマン幾何学の拡張や、四次元空間からさらなる多次元空間への拡張などにより試みられた。アインシュタインもその後半生をこの理論の追究に没頭したが、これらの統一場の理論は成功しなかった。1930年代から急速に発展した原子核や素粒子の現象の研究は、重力と電磁気力という古典的力以外に素粒子のような微視的大きさでのみ働く弱い相互作用と強い相互作用を新しい力として認識し、自然界には四つの力が存在することが発見された。弱い相互作用は原子核のβ(ベータ)崩壊を通じ、強い相互作用は湯川秀樹(ひでき)による核力の中間子論を通じてみいだされたものである。
1970年代になり、陽子や中性子を構成するクォーク間の力は、電磁気学と類似のゲージ場により媒介される相互作用であることがわかってきた。一方、重力の理論も電磁気力の理論もゲージ理論の一種であるから、四つの相互作用はすべてゲージ理論で記述されることになり、これらの四つのゲージ場を統一的な原理から導き出すような統一理論が現実の課題となってきた。ゲージ理論は広い意味での幾何学理論であるが、かつての統一場理論の単純な延長線上にあるものではない。1967年にワインバーグ、翌1968年にサラムが、グラショーの考えを発展させて、電磁気力と弱い相互作用を統一するゲージ理論(ワインバーグ‐サラムの理論)を提出し、これは実験により検証された。続いて、これら二つと強い相互作用をも統一する大統一理論の試みが開始された。この理論では陽子の崩壊などが予言され、その実験が試みられている。さらに重力を含めたすべての力の統一もいくつか試みられているが、まだ成功していない。
ゲージ理論は、物理法則のもつ対称性(シンメトリー)が時間・空間の各点で独立して成立することに由来するゲージ場の存在が必然的となることを基礎にして構築されている。そして、本来、存在する対称性が破れることと関連して、いくつかの力に分化していくのである。この対称性の破れは宇宙の初期に現実におこり、現在のような四つの力の起源となったと考えられている。このように今日の統一理論は宇宙論と密接に関連しており、さらにすべての物質の存在の必然性をボソン(ボース粒子)とフェルミオン(フェルミ粒子)間の超対称性から導こうとする試みもある。また超ひも理論(超弦理論もしくはスーパーストリング理論ともいう)のように多次元空間が内部空間と四次元時空に分離してきたとする試みもある。
[佐藤文隆]
『W・ハイゼンベルク著、片山泰久訳『素粒子の統一場理論』(1970・みすず書房)』▽『アインシュタイン著、内山龍雄訳編『一般相対性理論および統一場理論』(1970・共立出版)』▽『日本物理学会編『物質の窮極を探る――現代の統一理論』(1982・培風館)』▽『佐藤文隆編『宇宙論と統一理論の展開』(1987・岩波書店)』▽『内山龍雄著『一般ゲージ場論序説』(1987・岩波書店)』▽『P・C・W・デイヴィス、J・ブラウン編、出口修至訳『スーパーストリング――超ひも理論の世界』(1990・紀伊國屋書店)』▽『デーヴィッド・F・ピート著、久志本克己訳『超ひも理論入門 上 大統一理論を超える』(1990・講談社)』▽『藤井保憲著『「統一理論」――自然界の4つの力は統一できるか?』(1993・学習研究社)』▽『西島和彦著『素粒子の統一理論に向かって』(1995・岩波書店)』▽『坂井典佑著『最後の物理法則――超対称性と超弦理論』(1995・岩波書店)』▽『和田純夫著『場の量子論とは何か――統一理論へ近づくための根本原理』(1996・講談社)』▽『ミチオ・カク、ジェニファー・トンプソン著、久志本克己訳、広瀬立成監修『アインシュタインを超える――宇宙の統一理論を求めて』新版(1997・講談社)』▽『小沢直宏著『超・大統一理論による宇宙の開闢』(1998・清水弘文堂書房)』▽『長島順清著『素粒子物理学の基礎2』(1998・朝倉書店)』▽『原康夫・稲見武夫・青木健一郎著『素粒子物理学』(2000・朝倉書店)』▽『藤川和男著『ゲージ場の理論』(2001・岩波書店)』▽『ゴードン・ケイン著、藤井昭彦訳『スーパーシンメトリー――超対称性の世界』(2001・紀伊國屋書店)』▽『渡辺靖志著『素粒子物理入門――基本概念から最先端まで』(2002・培風館)』
アインシュタインの一般相対性理論によれば,重力は時空の曲り方にほかならない。その曲り方はリーマン幾何学によって記述される。この意味で一般相対性理論は重力場およびその相互作用を時空の幾何学に帰着させたということができる。一般相対性理論が提出された直後の1918年,H.ワイルは,重力場とともに電磁場をも一つの幾何学から導く理論を発表した。このような,重力場だけでなく電磁場も空間の性質に帰着させる考え方を統一場理論と呼ぶ。リーマン幾何学ではベクトルの平行性は,各時空点ごとに異なった意味をもつようになっていたが,ワイルはこれを拡張し,ベクトルの長さの規準も,各時空点ごとに異なりうるような時空およびその幾何学を考えたのである。その結果現れる接続場を電磁場の四元ポテンシャルとみなすというのがワイルの提案であったが,この理論は成功とはいえなかった。つまり,数学的には完全であったが,ワイルの接続場は,実際の電磁場とは物理的に異なった性質をもたざるをえなかったのである。その後,22年にはドイツのカルーツァTheodor Franz Eduard Kaluza(1885-1954)が別の型の統一場理論を提唱している。彼は五次元の時空から出発し,これを四次元に縮小すると重力場のほかに電磁場が現れることを示した。このような統一場理論としては,その後,アインシュタインも含めて多くの人々が諸種の理論を試みたが,物理的立場からみて説得性のあるものとはいいがたいものであった。
一方,1954年にはC.N.ヤンとR.L.ミルズが非可換ゲージ場の理論を発表し,これに基づいて,70年代の終りには電磁場と素粒子の弱い相互作用を統一的に記述する理論がS.ワインバーグとA.サラムによって完成され,これをさらに発展させて素粒子の強い相互作用をも含む大統一理論を作ろうとする試みが盛んに行われている。ここで注目すべきことは,ヤンとミルズの理論が,かつてのワイルの理論の生れ変りという面をもっていることである。また1956年,内山竜雄によって初めて指摘されたように,一般相対性理論そのものも一種のゲージ場の理論と考えられるようになってきた。このような背景のもとで,素粒子の基本的な場と重力場を,新しい幾何学によって統一する理論を求める研究は,最近のもっとも活発な分野となっている。
→ゲージ理論 →相対性理論
執筆者:藤井 保憲
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…ワイルは,リーマン幾何学を拡張し,電磁場もまた幾何学的起源をもつような時空の理論を展開した(1918)。このような考え方は統一理論(統一場理論)とも呼ばれ,後にアインシュタインも熱心に追究した。現在では,各種の素粒子の場との統一を目ざす理論についての研究が活発である。…
※「統一場理論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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