改訂新版 世界大百科事典 「ペンデンティブ」の意味・わかりやすい解説
ペンデンティブ
pendentive
方形に置かれた四つのアーチとその上に架構されたドームの下縁に挟まれた球面三角形の小間をさす。アーチ下端を結ぶ正方形を考えるならば,それに外接する円を底面にもつ半球面の一部となる。円筒形の壁体にドームを架す場合(ローマのパンテオン)には両者の接合が比較的容易であるが,方形の部屋にドームを架構する際には部屋の四隅とドームの下縁をつなぐ工夫が必要となる。これには,隅部に水平な斜材(スキンチsquinch)を置き,方形室の上面のみを八角形ないしより円に近い多角形として接続する方法,あるいは水平斜材の代りにアーチ(スキンチ・アーチ)を用いる方法等があるが,ペンデンティブを用いる方法はこれらに比べて力学的合理性にすぐれ,造形的効果も大きい。
ローマ時代末期にはすでにペンデンティブに似た支持構造が考案されていたが,起源はおそらくローマ領シリア地方の小規模住宅建築にあると考えられる。ラベンナのガラ・プラキディアの廟(5世紀前半)は最初期の作例に数えられ,6世紀に入るとハギア・ソフィア,ハギア・イレネなどビザンティン帝国の首都コンスタンティノポリスを中心として帝国領各地の教会堂建築で,モザイクないし壁画で飾られた,ペンデンティブを用いたドームが数多く建設された。以後,この構法はイスラムのモスク建築(スレイマン1世のモスク,イスタンブール,16世紀),ルネサンス,バロックの教会堂建築(サン・ピエトロ大聖堂,ローマ,16世紀)でさかんに用いられ,なかには華麗なスタラクタイト(鍾乳石)装飾を施した例,ドーム荷重を隅部の柱に伝達する重要な構造要素であるこの部分に開口部を設けた大胆な例(グアリーニ作の聖骸布礼拝堂,トリノ,17世紀)もみられる。ペンデンティブとドームが連続した同一の球面をなす場合,その全体は〈帆形ドーム〉とよばれる。
執筆者:日高 健一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報