日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボルヒェルト」の意味・わかりやすい解説
ボルヒェルト
ぼるひぇると
Wolfgang Borchert
(1921―1947)
ドイツの詩人、劇作家。第二次世界大戦直後のドイツの、いわゆる「失われた世代」の一人。ハンブルクで教師の息子として生まれる。母も低地ドイツ語の郷土作家として知られる。実業学校を中退し、書店の見習いをしながら演劇の道を志し、1941年リューネブルクの「東ハノーバー地方劇団」に入ったのもつかのま、兵士として東部戦線に送られ、負傷と疾病のための入院と、反体制的言動のための入獄を繰り返し、二度にわたって保護観察処分を受ける。終戦直後のハンブルクで仲間と喜劇を上演、劇場の監督助手となるが、肝臓病が進行して両親のもとでの療養を余儀なくされる。47年、友人の世話でスイスのバーゼルの病院へ移されるが、病床で執筆した『戸口の外で』(1947)のハンブルク初演の前日に短い生涯を閉じた。代表作『戸口の外で』は、戦後の過酷な現実のなかで生きる道を絶望的に模索する復員兵のドラマで、戦争世代の苦悩を激しい口調で代弁するもの。ドイツ国内のみならず諸外国で絶大な反響をよんだ。ほかに短編集『この火曜日に』(1947)と『たんぽぽ』(1947)がある。
[信岡資生]
『小松太郎訳『ボルヒェルト全集』全一巻(1973・早川書房)』