日本大百科全書(ニッポニカ) 「ボンダレフ」の意味・わかりやすい解説
ボンダレフ
ぼんだれふ
Юрий Васильевич Бондарев/Yuriy Vasil'evich Bondarev
(1924―2020)
ソ連・ロシアの作家。オレンブルグ州オルスク生まれ。第二次世界大戦では前線で戦い、負傷した経験をもつ。1944年、共産党に入党。1945年、モスクワのゴーリキー文学大学に入学、パウストフスキーのゼミで学んだ。1949年から短編を文芸誌に発表するようになり、1951年には文学大学を卒業、ソ連作家同盟のメンバーとなった。
最初の短編集は『大きな川で』(1953)。中編『指揮官たちの青春』(1956)は砲兵学校の生徒たちの生活を描く。中編『大隊は砲火を求める』(1957)、中編『最後の一斉射撃』(1959)、長編『熱い雪』(1970。1973年映画化され、1974年に『スターリングラード大攻防戦』という邦題で日本公開)などはいずれも第二次世界大戦に題材をとっており、ボンダレフは新しい戦争文学の旗手として高く評価された。彼の作品は、勝利を美化することに終わりがちだったそれまでの戦争の描き方の安易さを排し、悲惨な敗北や多大な犠牲などをその参加者の視点から克明に描き出した点で、画期的なものである。長編『静寂』(1962)では、作品の舞台は初めて戦場を離れ、若くして戦争を経験した世代の戦後の苦境とスターリン時代末期の不当な迫害を告発した。
長編『岸辺』(1975。ソ連国家賞受賞)から、ボンダレフは作家として新たな境地を切り開いていく。『岸辺』の主人公である作家は当時の西ドイツを訪問したおりに、30年前に愛したドイツ人女性と再会し、苦悩する。その次の長編『選択』(1980。ソ連国家賞受賞)は、あるソ連の芸術家と、西側に亡命したかつての戦友の運命を対照的に描き出した。『ゲーム』(1985)、『誘惑』(1991)もまた知識人を主人公としてその内面的な苦悩に焦点をあわせた長編であり、『岸辺』『選択』とあわせて四部作とみなすことができる。
ボンダレフはもともと1950年代後半には「雪どけ」の機運を担う新進作家としてソ連文学に新風を吹き込んだが、1960年代後半からはソ連作家同盟で重要なポストを占め、その言行もしだいに保守的で体制派的なものになっていった。ソルジェニツィン批判にも率先して加わり、ペレストロイカ(建て直し)に対しても否定的な態度をとり続け、改革を推進しようとする民主派からは保守反動として非難された。その後の長編に『無抵抗』(1994~1996)がある。
[沼野充義]