日本大百科全書(ニッポニカ) 「マカック」の意味・わかりやすい解説
マカック
まかっく
macaque
哺乳(ほにゅう)綱霊長目オナガザル科マカック属に含まれる動物の総称。この属Macacaのサルは、パキスタン以東のアジアとアフリカ北部に分布し、普通12種に分類される。アフリカ産のヒヒ属Papioとともに、ヒト以外の霊長類ではもっとも広い分布域をもつグループである。オナガザル科のなかでは中形で、ずんぐりとした体格をもち、雄は体長50~60センチメートルのものが多い。雌はやや小形である。尾はほとんどないものから体長より長いものまでかなり変異に富む。体色は褐色または黒いものが主体をなす。雄は生後4~5年、雌は3~4年で性成熟に達し、30歳近い寿命が記録された例もまれではない。
全体としてみれば、きわめて多様な環境に適応しており、熱帯多雨林、比較的乾燥した地域、あるいは冬季に数メートルの積雪をみる冷温帯落葉樹林でもみられる。食性は特殊化せず、植物性食物を中心とする雑食性を保持し、昆虫、カニ、トカゲ、鳥の卵なども食べる。群れの大きさも多様であるが、ほとんどの種は複数の雄を含む複雄群をつくって生活している。
マカック属の分布域のなかでもっとも広い部分を占める種は、大陸部のほぼ全域をカバーするアカゲザルM. mulattaと東南アジアの島々にすむカニクイザルM. fascicularisである。後者には著しい地方差がみられる。一方マカック中の特異な地位を占めるのは、カニクイザルがすまないスラウェシ島に分布するムーアモンキーM. maura、唯一のアフリカ産のマカックであるバーバリーエープM. sylvana、ヒト以外の霊長類では最北限の分布域をもつニホンザルM. fuscataである。なおこの3種はいずれも短い尾をもっている。
マカック属は中新世の後期にアフリカ北部で出現し、地中海沿岸で栄えたのち、鮮新世後期までにインドに達した。バーバリーエープは前者の系統を引き、アジア産の種は後者が分化したもので、このなかでは現在限られた分布域をもつシシオザルM. silenusとブタオザルM. nemestrinaが古いタイプの名残(なごり)をとどめているといわれる。
[川中健二]