改訂新版 世界大百科事典 「マジュリス」の意味・わかりやすい解説
マジュリス
majlis
イスラム諸国で,集会所,サロン,議会などを表すアラビア語。〈座る〉〈(集会に)参加する〉を意味する動詞jalasaの派生語。イスラム以前から,一般に集会の意味で用いられたらしく,コーランでも複数形のmajālisがムハンマドの集会の意味で1回だけ出る。
イスラム期に入ってウマイヤ朝初期,アラブの戦士たちが部族ごとに集住した軍営都市(ミスル)内では,その部族の中でのしかるべき居住区ごとに集会所としてのマジュリスが設けられていた。アッバース朝に入って官僚機構が発達してくると,重要な諸官庁(ディーワーン)は,さらに内部がいくつかの部や課に分かれていたが,それらに当たるのがそれぞれマジュリスと呼ばれた。たとえば税務庁の中のマジュリス・アルウスクダールは,税務に関する公文書の受付と発送業務を扱ったし,マジュリス・アルアスルはほぼ総務課に該当した。また宰相や知事など高官の官邸もしくは邸宅には,マジュリスと呼ばれる部屋があって,会議室の機能のほかに,社交的な意味のサロンとしても用いられ,とくに宴会としてのマジュリスでは音楽と踊り子と酒が欠かせない要素とされた。ファーティマ朝では,最初カリフが儀式などで座る座所を意味していたが,しだいに御前会議に近いものになり,その会議を扱う官庁ディーワーン・アルマジュリスも設けられた。マムルーク朝では,マジュリスはスルタンやスルタンに代わる執権もしくは総司令官を議長とする最高顧問会議を指し,執権,総司令官,カリフ,宰相,四法学派の最高裁判官,有力百騎隊長らが列席し,国家の諸政務について意見を徴された。このような会議の世話役として,実力のある百騎隊長のうちからアミール・マジュリスが任命されていたが,これは官房長官に当たる。議題が国家的な政務でなく,ワクフ(寄進財産)に関する諮問であるとか,異端者の宗教裁判であるとか,あまり重要でない場合は総司令官が議長となり,その議題の審議に適した裁判官や法学者が追加して選ばれ列席した。またマジュリスは公文書の中では,たとえばマジュリス・アルカーディーのように,公職にある人物に対する単なる敬称としても用いられた。
近代に入って西洋の議会の概念が導入されると,それに対応する語として用いられるようになった。もっとも,現代においてもそれは,代議制に基づく立法機関としての意味から,王制のもとでの単なる諮問機関としての意味まで,多様な内容を含んでおり,マジュリスの民主主義的意味が政治的争点とされるようになっている。
執筆者:森本 公誠
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報